1-4

 リズムゲームの筺体で周囲を見ている人物がいた。先ほどの背広の男性とは別の人物らしい。若干の巨乳で身長が一七〇位の女性だが、彼女のリアクションは先ほどの女性とは違うのは明らかだった。


「これが噂のリズムゲームなのね」


 彼女はセンターモニターのデモムービーを見ながら、興味あり気に様子を見ている。待ちプレイヤーの数もあって他のリズムゲームの方へ移動しそうな流れだが、それでも空きが出来ればプレイするだろう。


「とりあえず出直すか」


 デモムービーが終わったのを確認し、彼女は別のリズムゲームが設置された一角の方へと移動する。周囲のギャラリーは彼女の周厳に対して、何か動揺を見せていたのだが――。


「あれはプロゲーマーでは?」


「確かに見覚えのある女性だったな」


「しかし、名前が思い出せない。リズムゲームをメインにしているのは間違いないが」


 すぐに立ち去った女性を見て、明らかに一部プレイヤーは来てほしくないと言うオーラを放っていた。


 プロゲーマーがくれば、対戦しても勝ち目がないと考えている為だが――リズムゲームではそうだろうか?


 対戦格闘ゲームではプロゲーマー同士の対戦は盛り上がる一方で、片方がアマチュア等の場合は展開によっては盛り下がるケースもある。しかし、リズムゲームはあくまでも対戦要素がある物でもスコアを競う部分が多く、個人プレイでのランキングがほとんどだろう。



 プロゲーマーが筺体の近くにいた事を、彼女は気付かない。周囲のモニター的な事情で外の様子を見る事が出来ないためだ。


 周囲のモニターを見て、ゲームのシステムを若干理解始めるのだが――それでも難しいかどうかはプレイしないと分からない。せっかくのカードを無駄にしない為にも。この手のカードは他のゲームでも流用が可能な場合が多いので、無駄にはならないと思うが。


(次はチュートリアルかな?)


 しかし、目の前の画面を見てもチュートリアルの表示はない。まずは腕にハンドコンピュータを付けるのが先のようだ。彼女は右利きなので、左腕に付ける事になる。ベルトが付いているので――きついと思ったら調整は容易らしい。


 その一方で、ゆるすぎたらコンピュータを落として破損させかねない。そう言う懸念はあったのだが、腕に付けたと同時に――。


(思った以上に軽い? もう少し重いと思ったのに)


 彼女は予想以上に軽いと感じ、これならば落とす事はないだろうと考えた。その後、ハンドコンピュータに名前入力を誘導するようなインフォメーションが表示される。


 インフォメーションの後は、ハンドコンピュータにパソコンのキーボードを思わせるような表示が現れた。どうやら、ハンドコンピュータと言う割に軽いのはタブレットのような物なのかもしれない。


(名前の入力も、ここまで簡単になっているとは、ね)


 ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字辺りは対応しているとキーボードを見て判断した。さすがに倫理的にアウトな名前は入力できないのは当然だが、それ以外にも入力できない名前もあるだろう。


「せっかくだから、これに――」


 彼女は右手で器用に漢字変換をしつつ入力した名前、それはWEB小説にも登場する人物の名前だが――。最終的にはNGと判断されなかったので、他に名前の浮かばない事もあり――そのままYESにタッチした。


 名前の変更自体は可能なので、何かあれば修正の必要性はあるだろう。それでも、本名を入れるよりは安心出来る。


【プレイヤー名:雪華ツバキ】


 この名前自体はコスプレイヤーとしてのネームでもあって、本名ではない。そのまま本名よりは若干マシだが、周囲の反応を踏まえると――これで正解かもしれなかった。


 コスプレイヤー、雪華せつかツバキのゲーマーデビューである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る