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 再び腕を交差に組み、彼女は改めて筺体の上にあるパネルを見ている。メガネはかけているが、近視と言う訳でもない。何かを見落としていると考えるが、二台目と三台目の筺体の間には液晶モニターがあった。これがエントリー用の端末だろうか?


 そこに映し出されているデモ映像を見ると、CMで見覚えのあるアバターの姿がそこにはある。BGMは流れていないが、エコモードとしてオフになっている可能性は高い。プレイしないと全ては始まらないだろう。


 彼女は筺体の空き状況を確認する為、端末のボタンを押して切り替えようと考えたのだが――。


(ボタンが何もない?)


 目の前の端末は全てタッチパネルように見えるが、おそらくは非接触型の物かもしれない。この辺りは消毒の手間を含めたメンテナンスの簡略化と言う可能性もある。まさかのハイテクを目撃した気分だ。


(プレイ料金は、一回で二〇〇円か)


 彼女が若干の及び腰になったのは、プレイ料金だ。リズムゲームの場合、相当なエリア出ない限りは一〇〇円で一回が基本だろう。曲数は二の次だが、そこも彼女は考えている。


 しばらくすると、一番奥の四番台から一人の男性が出てきた。おそらく、プレイ終了した人物だろうか?


「なるほど。リズムゲームに偽りなし――と言った所か」


 感心している様だが、それでも表情は喜びと言う気配がしない。負けたと言うべきだろうか?


 リズムゲームに勝敗があるとは思えない。格闘ゲームであれば、勝ち負けは付きものと言うべきだが――。



 ゲームに関しては下調べも行っており、すぐにトライしてもよさそうだが――さりげなく五人待ちというメッセージ表示が出ている。


 他のリズムゲームを踏まえると、これでも混雑している方だろうか? 彼女は周囲を見回すと――そう言った光景はないようだ。


 実は、このゲームだけ設置場所の関係上でリズムゲームコーナーとは少し違う場所に置かれている。この機種の背後にあるのは、同じようなコクピット型筺体のロボットアクションゲームだ。こちらは十人待ちもザラだが。


 似たような筺体形状かもしれないが、上のパネルを見て明らかに違うと判断しているのだろう。間違ってこちらへ並ぶプレイヤーはいない。


「キミ、このゲームをプレイするのか?」


 声をかけてきた男性は、先ほどの人物だった。外見を見ると、普通にゲーマーと言う訳ではない。むしろ、仕事の途中で抜け出してきたような背広の人物である。ゲーセンと言うには、明らかに雰囲気も違う場所なので、こうしたお客もいるのだろう。


 彼女はプレイしようかと迷っていたが、端末を見て何かに気付いた。それは、カードのタッチパネルがある事だ。そう言えば、何処かの販売機でカードを買ってこなければいけないのだろうか? もしくは、ARゲーム専用のガジェットか?


 しばらくして、端末でも購入できる事をデモ画面で確認し――そこで専用カードを購入する事になった。


(カードだけで三百円とか取られそうと考えていたけど――)


 カードの値段は二百円、プレイ料金とは別カウントなのは当たり前だが、良心的な値段と言うべきか。ARガジェットの場合、ジャンルによって料金も異なり、一万円かかるケースだってある。


 このゲームはARゲームとは違うので互換性はないのだろう。端末にも『ARガジェットは使えません』と表示されていた。端末の下にあるカード取り出し口から出てきたのは、一枚のカードである。サイズとしては自分の手のひらより一回り小さく、IC定期位のサイズかもしれない。


「このカードで、本当に――」


 表にイラストがある訳でもなく、白紙に近いカードに『ニューリズムゲームプロジェクト専用カード』と記載があった。


 白紙なのはロケテストから使い回しているのかもしれない。ロケテストの記事でも白紙のテストカードが使われていた為である。しかし、今回の機種は正式サービスの物なのでロケテ用カードは使えないのだろう。



 それからしばらくの時間が経過する。腕時計ではなくスマホの時計アプリを見ると、午後一時位か。


 お昼を食べずに来たとはいえ、あまり腹は減っていない。朝は軽食程度しかとっていないのだが――。むしろ、後ろにあるゲームで二〇人待ちとか出ているので、こちらの方が待ちが少ない――と言う事だろう。


 いざ自分の番が回ってきた際には、先ほど購入したカードをタッチパネルに当てて整理券を消費するシステムらしい。整理券と言っても番号は順番に振られる訳ではなく、ランダム要素が絡む。時間帯によって、一番が割り当てられたのに二番が呼ばれる事もあるようだ。


「三番のスペースに――」


 三番と書かれた筺体の前に立つと、コクピットハッチが開くような演出で目の前のゲートが開いた。そのゲートをくぐると、そこには三六〇度対応のような全周囲モニターと、腕にはめるようなハンドコンピュータが置かれている。


 どうやら、ハンドコンピュータを左か右の腕に装着し、起動するような仕組みのようだ。


(確か、センターモニターでは――)


 センターモニターでの注意によると、利き手とは逆の腕に取り付けるとの事らしい。右利きならば左腕、左利きならば逆だ。これがどういう事なのかは――チュートリアルを見れば分かるとは、あの男性が語っている。

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