かみひこうき
Tamathan
少年の飛行機
少年は飛んだ。飛行機は離陸したばかりだが、少年の瞳には遥か高い、青い空が映されている。機内の空気ははりつめ、心臓は緊張に高鳴り、手には汗が滲んでいる。
しかし、少年は臆するどころか、喜びと興奮で身体が震えている。少年の手と足となり、飛行機はさらに上昇してゆく。
あっという間に雲をこえた飛行機は、さらに深さを増す青を、こえようとしている。そんな留まることを知らぬ飛行機は、正に彼自信なのだ。
青を超え、黒くなっていく星の海。少年は宙を目指そうとしている。あと少し、あと少しで海に飛び込む時が来た。
すると、星の海の下、青い空の、そのまた下の、遥か雲の下から、少年を呼ぶ声が響いた。
間もなく、回診のため先生が来るのだとと、看護師はにこやかに言う。
その知らせに、少年は急速に落下した。不時着するのは少年がいる病院の、この病室の、ベッドの上。
帰還した少年はそっと本を閉じ、ベッドの横の引き出しにしまった。青い空は遥か彼方。雲の白さは病室の白でもあるのに柔らかさは欠片もない。
足の不自由な少年は、ベッドの上に留まることしか出来ず、うすら肌寒い病室の空気に身を震わせた。渇いた少年の手は、上着を見つけた。朝の寒さはだいぶやわらいだが、心は虚しいままだった。新しい日の光が、今日もまた病室に入りこむが、少年の瞳には何も映されてはいなかった。
空は未だ遠い、ままである。
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