Relate/聖剣使いの英雄譚

未来紙 ユウ

プロローグ

0 『選択』

 ──人はあんなに簡単に死んでいくものなのか。


 理不尽な存在を前にして、たくさんの灯火がなんの抵抗もできずにかき消されていく。


 鎧を纏う白髪の老人が、目の前で真っ赤な鮮血を垂れ流している。死んでしまったかと思ったが、ピクリと指が動いた。

 生きていた老人に急いで〈回復ヒール〉をかける。だが、胴体を貫通しているほどの大怪我を治すことなど到底できない。


 まだ生きている。助かる方法があるはずだと、信じて諦めなかった。〈回復(ヒール)〉をかけ続けるが傷口は塞がらず、血が止まる気配もなく段々と体は冷たくなる。


 涙が溜まり、視界がぼんやりと歪む。


 ──人族の未来は……お前に、託す……。


 瞳から光が失われていく老人が、フッと笑いかけてきた。


 ──任せた……人族の希望……。


 全身から力が抜けたように、老人はピクリとも動かなくなる。それでも〈回復(ヒール)〉を使い続けるが、抜け殻となった体に効果はない。


 どれだけ信じても、どれだけ諦めなくても、絶対に覆せない不可能はあるんだと──その時に知ってしまった。


 ──救世主。


 老人が最期に放った言葉に違和感を覚える。


 守らなきゃいけない。そうしなきゃいけない。そうしないと、あの選択が間違っていたことになる。


 この時からだったかもしれない。選択は正しかったのか……俺が、俺自身を疑い始めたのは。

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