「月は欠けて変われど同じ月」

新豊鐵/貨物船

第1話

あっ、帰って来た!

微かな足音でもわかる・・・

俺は遊んでいたオモチャを放り出すと急いで玄関へと走り、ちょこんと座りながら彼女がドアを開けるのを待つ。


「ただいまぁ」

彼女は明るい声でドアを開け愛おしそうに俺の頭を撫でて抱き上げると頬ずりをしながら靴を脱ぎ捨てた。


「ちゃんと並べて脱ぎなさいよ!」

振り向きもせずに彼女の母親が注意する


彼女にとってそれはいつものことで俺を抱いたまま階段を上がり、一目散に自分の部屋へと向かい着替えるとその日にあったことを話しながら時々、質問する。


「ワン!」

俺に意見を尋ねられても答えはいつも同じなのだがホッとしたような微笑みを浮かべると頷きながら薄っすらと目に涙する。


俺には人間の言葉の意味がわかる・・・

他の奴もそうなのか?

彼女と一緒に散歩に出た時に近所に住んでる犬たちに訊いてみたが俺の言ってることがわからないのか、それとも他の奴が言ってることが俺にわからないのか!?

全く会話というものが成立しないのだ。


俺は路地に放り出されて雨に濡れながら鳴いてた所を彼女によって救われた犬である


俺の飼い主である彼女の名前は藤島美希(フジシマミキ)

彼女は学校で仲間外れにされてると思っているらしく、それを気に病んでるみたいなのだ。


彼女はとても柔らかくて抱かれ心地が良い!

俺が人間ならば彼女の優れた部分をいくつも並べて仲良くすべきだと自慢してやれるのに・・・

俺の前だけで見せる彼女の寂しげな表情に何の励ましも掛けてやれない自分が悔しかった。


彼女はなぜ両親に相談しないのだろう?

あの優しい両親のことだ・・・きっと心配する!

俺が犬であり、言葉が喋れないから話せるのだろうが俺だって心配なのだ。


命の恩人である彼女に対して忠誠を尽くすぐらいしかこの俺に出来ることは無いのか!?

自分の意思を伝える術がないというのは歯痒いが、こうして家に居る時の彼女に付き従いながら恩返しがしたいと願い続けていた。


「そんなに振ったら尻尾がちぎれちゃうよ」

そっと涙を拭きながら笑顔を浮かべる彼女の表情で俺は少しだけ役に立てたような気になりホッとした

彼女に笑顔が戻るのならば俺の尻尾などちぎれたって構いはしない!

俺は彼女のことが大好きなのだ。

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