第6話
「そう、だったんだな……すまなかった。 なにも事情を知らずに脅迫まがいのことをしてしまった」
ボルドが深々と頭を下げてくる。
「全然気にしてないから大丈夫。 なんたって、ボルドは命の恩人だからな」
別にナイフを首元に突きつけられたくらいで慌ても、怒りもしない。実際に刺されるより100倍ましだ。いざって時はスキルもあるし。
「そうか、良かった。 それにしても、ショウが異世界人だったとはな。 恰好がこの世界で見たことない物だったから薄々そうかとは思っていたが、まさか本当にそうだったとは……驚いた」
いやいや、全然驚いてるように見えないんですけど?
さっきから全然、表情が変わらないんですけど?!
にしても……ボルド、イケメンじゃね?
さっきは暗がりでよく見えなかったけど、まずは、オレより10センチくらい高い身長(オレは175センチ)。それでいて、バランスの取れた頭身(目測8頭身)。
厳しさと爽やかさが同居した目つき。 それによく似合う重厚だけど聞き取り易い声。
……完璧だ。オレが女なら間違いなく惚れる。
そういえば、
「ボルド、歳はいくつなんだ?」
予想は30手前!!
「歳か? ちょっと待て……今年で42だ。 それがどうかしたか?」
「いや、何でもない。 少し気になっただけ」
若ッ。 その見た目で松平より歳上?!
……ドンマイ、松平。 世の中は理不尽で溢れてるんだ。
同じ40代でもここまで違うとは、松平に同情しそう。
「ショウ、一つ聞きたい、元の世界に戻る気はあるのか?」
中々鋭い質問が投げかけられる。
「全くない」
オレはキッパリと言い放つ。
「この世界で一番強くなるまで、オレは帰らない」
新しく決めた人生の目標をボルドに伝える。
「そうか……俺はその選択をどうこう言うつもりも権利もないが、多分、後悔することになるぞ、ショウ」
ボルドの纏う空気が変わる。肌がヒリつくようだ。
「……ショウ。 俺と1回で良い、手合わせしてみないか?」
「手合わせ?」
ボルドからの突拍子ない提案。ボルドの体格も雰囲気も見ただけで強者って分かるけど、それでもオレに勝てる程強いとは思えない。
「ああ。 ハンデをつけてやってもいい」
おっと? これは舐められてるかもしれないですね。
「いや、ハンデなんか要らないし、なんならオレがハンデつけてあげましょうか?ボ、ル、ドさん(・・)」
思いの外、カチンと来た。 久々に挑発されたから怒りの沸点が下がってたのかもしれない。思わず、挑発仕返したわ。
「ふ、生意気言うなよ。ショウ」
オレの慣れない挑発が面白かったのか笑われてしまう。
あれ?いつの間にか、手合わせする前提になってないか?
全然良いんだけど。
「取り敢えず、外に来てくれ」
そのままボルドは椅子から立ち上がると、外に出て行く。オレもボルドの後を追って外に出る。
もちろん、陽はとっくに落ちてるから真っ暗だ。
ま、まさか……オレの唯一の弱点を見抜いてる、のか?
んな訳ないと、思いたい。
「これ、半分、円形に置いていってくれ。 なるべく大きくな」
そう言ってボルド手渡してきたのは、無数の魔紅石だ。
暗い中で闘うことになるかもしれないっていうオレの心配はどうやら杞憂だった。
「これがリングになる」
なるほど。 炎のリングの中で闘うってことか。 明るくなるし、逃げられないし一石二鳥だ。
「分かった。 勝敗はどうやって決めるんだ?」
さすがに死ぬまでってことはないと思う。
「そうだな……敗北条件は二つ。
衣服に炎が燃え移ったら負け。 もう一つはどちらかが負けを認めるまでどうだ?」
「良い条件だと思う。 異論なし」
少しヌルいルールな気がするけども、無問題(モーマンタイ)。
「安心しろ。 殺しはしない」
へ〜やっぱり、舐められてるわ。
さっさと準備しよう。 吠え面かかせたる!!
5分後
「準備出来たか?」
「もちろん」
「ならこれに着替えろ。 そんな服じゃ動きづらいぞ」
いつから持っていたのか、お揃いの黒い武道着をボルドから手渡される。
オレはそれを受け取って、素早く着替えてリングの中に足を踏み入れた。
「さてと、闘るか。ショウ」
小屋の入口に立て掛けてあった松明を手に持っているボルド。
「俺が上に放った後、魔紅石が燃え上がったら始まりだ」
オレは無言で頷く。
オレはどんなに気持ちが昂ろうとも、試合や闘いが始まる前には冷静になれるし、それが強みだと自負してる。
……ただ、今回ばかりは抑えられそうになさそうだ。
久しぶりの強敵。 最初から全力だ。スキルは使わない。
「そらっ」
ボルドの投げた松明が一直線に魔紅石に向かって行く。
……ボゥッ
戦闘開始。
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