第1話

頭の中で、誰かが喋ってた気がする。

同期がどうとか、スキルがなんだとか。


いや、ちょっと待て。

その前に、オレ、死んだよな?

グーパーグーパー。 モゾモゾ……ゴソゴソ

天野翔、17歳、高校生二年。

その割に記憶もちゃんとあるし、手足の感覚もしっかりある。




とりあえず、状況を確認しよう。 そう思いゆっくりと目を開ける。


……暗い。 真っ暗だ。何も見えない。

いや、よく見ると光が見える。弱々しくだけど、暗闇の中だからよく目立ってる。オレはそれに近づこうと、うつ伏せになっていた身体を少し浮かして、手探りで地面を這いながら慎重に進む。

傍(はた)から見れば、高校生がハイハイをしている狂気の沙汰に見えるだろうが気にしないで欲しい。ハイハイなのは、なるべく頭をぶつけないようにしたいからだ。


這っていると手からゴツゴツとした感触が伝わってくる……これは岩、か?

ペタペタと周りを触ってみる。 ……感触はどの場所も一緒だ。


どうやら、オレは岩に囲まれた場所、いわゆる洞窟?のようなところにいるらしい。どうりで真っ暗な訳だ。

わけの分からない状況だけど、ただ一つ分かるのは、オレの理解の範疇を超えた何かが、起きていることは確かだ。



そうこうしているうち目標に到達する。

気になっていた光の正体は、光る岩石のようだ。 岩壁から生えている(生えているという表現が適切かどうかは分からないけど)。触ってみるとほんのり暖かい。

なんていう岩石なんだろうか。 頭に疑問符を浮かべる。


その時、


『【魔鉱石】


地中の【魔素】が地表に滲み出た際、鉄鉱石と結びついたもの。

暖かいのは地中に存在するマグマの距離が地表から比較的近いため。

金属の特性を引き継いでいるため熱を伝えやすい(熱伝導性)。

光度は含有する【魔素】の量に比例』


突然、謎の声が聞こえてきた。


いや、聞こえてきたというより脳内に直接語りかけてきたって感じだ。

オレは続きを待ったが、その声はそれだけ言うとその後はいくら待っても喋らなかった。


聞こえてきた声はまるでパソコンの自動音声みたいな声だった。他には女性の人っぽい声だったけどパソコンの自動音声みたいに血が通ってない声だ。

それでも、暗い場所が苦手なオレに話しかけてくれた時は安心したのに……

ま、落ち込んでても仕方ない。脱出の方法を考えるか。


オレは魔鉱石と呼ばれた岩に腰をかける。


十五分後……



うん、詰んでないかこれ?

一寸先は闇って感じだから歩くのもままならないし、もしかしたら危険な生物がいるかもで下手に動けない。もちろん、出口は分からない……

手練と闘っていた時でも、こんなピンチ中々なかった気がする。

なにより、そろそろ禁断症状が出そうだ。 この環境(くらさ)のせいで。

あ、ヤバい。 段々手足が震えてきt……


そんな諦念が頭をよぎった、その時、

真っ暗だった洞窟に光が差した。

オレが座っていた魔鉱石を筆頭に、洞窟内に元々あったのであろう魔鉱石が一斉に輝き始めたからだ。


オレ、何かしたか?

心当たり全くないけど。

突然の出来事に若干、戸惑う。


『回答。


主、翔の体内から漏れ出した【魔素】が洞窟内に存在していた鉄鉱石と結びついたためと思われます』


再び、謎の声が脳裏に響く。


今度こそ逃がさない。

まぁ、最初から捕まえるもなにもないんだけど。


(えっと、さっきからオレに喋りかけてきてる人? あなたは誰、というか何ですか?)オレは心の中で人?もの?に話しかける。



『回答。


ワタシは主、ショウの存在していた世界とこの世界の間にある次元にいた概念的存在です。主、ショウがこの世界へ移動してくる際、スキルとして概念的に無数に存在していたワタシ達の中から、ワタシがショウの”魂”と結びつきここへ来ました。

簡単に言えば、スキルそのものが自己を持ったモノだと思ってくだされば結構かと』




サラッととんでもないことが二つくらい聞こえたのは、オレの気のせいじゃないはず。

とりあえず、一つずつ片付けていこう。


先ず、ここは異世界………………はい、最初っからおかしい。

薄々、そうかな?とは思っていたけど実際に言われると実感が湧かないわ!

それに……スキルってなんだ?! ラノベかよ!

オレだってそういうのは修行の息抜き程度に嗜んでたから(田村に勧められて)、分からなくもないけどさ。


(一応、理解した。 それも踏まえて、一つだけ頼んでいいか?)

聞きたいことが色々ある。ていうか、あり過ぎる。

ただ、やっぱり最初はこれだ。


『ワタシに実行可能な事であれば』



オレは一言、

(ここから出してくれ……出来そう?)


鼻で笑われた気がしたのは心が折れそうになるから気付かなかったことにしよう。




これが、オレとスキル(名前はまだ無い)とのファーストコンタクトだった。

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