第42話 死が2人を分かつまで続く関係の始まり【北村・トモ】

小島にとって、一生忘れられない友人の一人が北村である。

北村との出会いは、小島が高校2年生の春のバス停だった。

小島の北村に対する第一印象は…

「あっ、ヤベー新入生が入ってきた!」

そんな感じだった。

北村は、まわりをキョロキョロ見ながら何やら独り言をしゃべり続けている。

そして他校の女子高生に話しかけるも気持ち悪るがられてガン無視されていた。

それからまた1人でぶつくさ言いながらキョロキョロしている。

まさに挙動不審という言葉がぴったり男が北村だった。


それから小島は、北村のことが何となく気になり目で追うようになる。

北村はいつも1人だった。

そして独特な雰囲気に次第に「こいつ面白いかも!」と思うようになっていく。

ある日、小島はバスの中で北村に話しかけてみた。

顔立ちが日本人ぽくなかったので「お前…ハーフなん?」と何となく聞いてみたのだ。

すると北村は「あっ?!ロシアと北朝鮮のハーフだよ!文句あんのか!」と先輩である小島にそう答えた。

カチンときた小島は反射的に北村を殴り「てめぇ、誰に物言ってんだ!何でモンゴルの血が入ってねんだよ!」

と意味不明な言葉を発する。

知らない男から話しかけられ、いきなりぶん殴られたうえに理解しがたい罵倒を浴びせられた北村は、小島に突っかかる。

その時ちょうどバス停に止まって扉が開いたので、2人は途中下車して戦いのゴングが鳴った。

結果は、北村がボコボコにされて小島の圧勝だった。


次のバスが来ると、挙動不審男と暴力男は一緒にバスに乗る。

それからバスの中で北村は自分のことを話した。

その内容は…

北村の両親は2人とも日本人で自分は純粋な日本人だということ。

友達が誰もいないということ。

そして将来ドリフターズに入りたい夢があるということ。

等々、小島好みの面白い奴だった。


それから小島は、北村と会う度に話しかけてやった。

北村はいつもタメ口で、小島が何度叩いて注意しても「何で?」「意味わかんねぇ」と言うような奴だった。

けれど、そんな北村にも誰も真似できない取り柄があった。

それは笑いのセンスだ。

北村の笑いのセンスは小島の予想を軽く超えてくる。

学校の放送室に勝手に入り、マイクを使って気持ち悪い喘ぎ声をだして授業を妨害したり…

球技大会のソフトボールの試合では「代打全裸男!」と言って全裸で打席に立ち、自分のちんこでボールを打とうとしたり…

これにはさすがに先生もキレてマイクで「こら!北村ぁ!服着ろ!こらぁ!」と怒鳴っていた。

雪の日には、小島達より先のバスで登校して学校近くの電柱に登って小島を待った。

そして小島達がバスを降りて歩いてくると電柱の上から「おはようございます。朝起きたら…ここにいました!」という身体を張ったボケをする。

そんな人を笑わす為に手段を選ばない北村に「お前、ほんとバカだなぁ」と笑って言える関係を小島は気に入っていた。


ある日、小島が「今日秩父高校の女と飲み会あるけど、お前も来るか?」と北村を誘うと、嬉しそうな顔して「はい行きます。」と答えた。

それが北村の初めて敬語を使った瞬間である。

小島は続けて「だけどな…俺の友達を紹介するけど、舐めた口きいたら俺が許さんからな!親しき中にも礼儀ありっつってな、そういう所ちゃんとしなきゃお前は仲間になれんよ!わかった?」と言うと、「わかりました!」とそれからきちんとした言葉で話すようになった。


飲み会では小島の予想通り北村は大活躍で、みんな面白い奴と気に入ってくれて今まで友達がいなかった北村にも仲間ができた。

特にトモとは、ぶっ飛んだ者同士ですぐ仲良くなって、よく遊びに行くようになっていく。

そして北村が小島のことを「兄やん」と呼んで慕ってくるようになったのもこの飲み会からだった。

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