第2話 「ポピー」という名の兄弟【ポピー・小島父】

小島が生まれた5月25日に小島家では、もう1つ命が誕生した。

小島家で飼っていたシェパードのウイリーが仔犬を産んだのだ。

その仔犬は「ポピー」と名付けられて小島と仲良く育っていった。


ポピーは、ほかのシェパードに比べて驚くほど体が大きくなっていった。

どれくらい大きくなったかというと、大工の父親がポピーのために作った檻が8畳ほどの大きさになってしまったくらいである。

そんなポピーの世話は、小島が小学校に入る前からしていた。

毎日の餌やりはもちろんのこと、ポピーの体もよく洗ってあげたし、幼稚園や学校が休みの日には檻の掃除も欠かさなかった。

散歩にも連れて行ったけれど、それは散歩というより小島が引きずられているだけだった。


ポピーは、とにかく利口だった。

家族には絶対吠えないけれど、知らない人が家に訪れると家族の誰かが「ポピー」と言うまで吠え続ける。

そして小島が帰宅してくるのが匂いでわかるのか、自分で檻を開けて必ず小島を迎えに行く。

その後ポピーは自分で檻に入っていく。

檻にカギは付いていたけれど、小島はポピーが迎えに来てくれるのがうれしかったので、わざと檻のカギを開けてから出かけた。

そして利口なポピーは、カギが開いていても問題を起こすことは1度もなかった。


小島は、迎えに来てくれたポピーに会うと2人でヘトヘトになるまで無我夢中でじゃれ合った。

知らない人が見たら、小さな男の子が巨大なシェパード襲われているようにしか見えなかっただろう。

けれど小島とポピーは、同じ日に生まれた兄弟のように遊んでいただけだった。

ちなみに小島は、小学校3年生まで柔道を習っていたけれど同年代では無敵だった。

なぜかというと、巨大なシェパードより強い同年代なんて1人もいなかったからだ。


そんな小島が誕生してから14年経った頃にある噂が流れた。

どんな噂かというと、埼玉県秩父市のとある山に「天狗が出る」というのだ。

その天狗の正体は、小島とごく親しい数人しか知らない。


これから始まるのは、素直で女好きで身体能力が高い小島という男の半生と、秩父の山に天狗が出ると噂になった経緯(いきさつ)を描いた物語である。

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