第52話アリシアとベアトリスの手紙

二人を弔った後、マリアが俺に渡してくれたものがあった。


アリシアとベアトリスからの手紙だった。


アリシアとベアトリスの最後の2時間、マリアさんとアルベルティーナが、二人と話した。


そして、二人から手紙を預かってきた。


俺は自室で、二人の手紙を読んだ。まず、アリシアからの手紙だった。


『レオンへ。こんな私を助けようとしてくれてありがとう


 本当に嬉しかった。こんな私の為に涙を流してくれて


 多分、誰も私の為に涙を流してなんてくれない。あなただけが涙を流してくれた


 もしかしたら、両親も、こんなみだらで、罪深い娘、恥じるだけかもしれない


 私は死んで当然な女です。あなたが赦してくれても私が自分を許せない


 どうしてあんな事をしたのか?


 どうしてあんな事を思ったのか?


 今はわかりません


 そのくせ、鮮明にあなたを害した時の気持ちが残ってるんです


 本当に自分の考えだったのか?


 でも、間違いなく、自分が思った事なんです


 あなたと過ごした故郷の記憶はとても楽しい、良い思い出でした


 あなたが私に告白してくれた時、本当に嬉しかった


 今思えば、あの時が人生で一番幸せな時だったと思うの


 ほんとうに嬉しくて


 本当なの


 だって他に思い出せない


 お父さんにおねだりした熊のぬいぐるみをもらったときよりも


 勇者パーティに選抜された時よりも


 一番嬉しかったのは、レオンが告白してくれた時


 初めてキスしてくれた時も、あの時も百夢花が咲いていた。


 本当に嬉しかった

 

 レオンは優しい。こんな私を赦してくれた。そして涙を流してくれた


 どうして私はレオンを裏切ったのだろう?


 どうして私はレオンを傷つけても平気だったのだろう?


自分でもわからない


 今はこんな私を赦してくれたことに感謝しています


 でもね、レオンは優しい


 レオンが私のことをいつまでも覚えているんじゃないかって心配です


 レオンは優しいから


 私の事は忘れてください


 私はこれから罪を償って死ぬ女


 私はレオンを裏切った女

 

 私のことは忘れて


 レオンが百夢花の下で告白した子なんていなかったの


 地獄に行くような女はいなかったの


 レオンを裏切った最低な女なんていなかったの


 最後にごめんなさい


 こんな酷い幼馴染で


 ごめんなさい


 こんな酷い婚約者で


 ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい


 いくら謝っても罪は消えないことはわかっているけど


 それでも何度もいいたい


 もし、私のことを赦してくれるんなら


 もし、ほんの少しでも私のこと思ってくれるなら


 私のことは忘れてください


 たくさんの思い出をありがとう。レオン』


☆☆☆


ベアトリスの手紙の封を切った。ベアトリス、俺の妹、俺を愛した妹。


『お兄ちゃんへ。今から思えば、何故お兄ちゃんを恨んだのかが、わかりません


 お兄ちゃんは、いつも優しかった。何をしても、私が泣きそうになると、お兄ちゃんが謝ってくれた


 私はお兄ちゃんを愛してました。今も大好きです。もう、言っちゃったから、告白します


 気持ち悪い妹と思うかもしれません。でも、本当に大好きなんです


 お兄ちゃんとずっと一緒にいたかった


 お兄ちゃんがあんまりカッコイイから好きでした


 お兄ちゃんはどんどんカッコよくなるんだろな、それをずっと見ていたかった


 大好きです。お兄ちゃん


 愛してます。お兄ちゃん


 なのに、私は何故、お兄ちゃんが、あんなに憎かったんだろう?


 何故お兄ちゃんを裏切ったのだろう?


 エリアスは私を物としか見てなかった。それがわかった時、


 自分がどれだけ馬鹿だったのかがよく、わかりました


 私の命を助けようとしてくれたのはお兄ちゃんだけだった


 私を大事にしてくれたのはいつもお兄ちゃんだった


 アリシアお姉ちゃんの次にしか、大事にしてくれないのは悔しいけど、仕方ないです


 私は妹なんだから、


 お母さんとお父さんには秘密にしておいてください


 お兄ちゃんを裏切った事は多分、もう知られてしまっている


 もう、私はお母さんとお父さんに顔向けができない


 私の事はお母さんとお父さんにありのまま話してください


 私はお兄ちゃんに許してもらえたら、それで、いい


 こんな馬鹿で、酷い妹でごめんなさい


 たくさん、嫌な事や酷い事してごめんなさい


 たくさん、お兄ちゃんを傷つけてごめんなさい


 たくさんの人を殺めてしまってごめんなさい


 でも、お兄ちゃんが許してくれたから、潔く、逝けます


 なんてね。本当は違います


 お兄ちゃん、死にたくないよ


 お兄ちゃんの元に帰りたい


 お兄ちゃん、怖いよう


 またお兄ちゃんに頭を撫でてほしいよ


 またお兄ちゃんから誕生日プレゼントをもらいたいよ


 ほんとにダメな妹


 だからね。ベアトリスのことは忘れてね


 お兄ちゃんに妹なんていなかった


 お兄ちゃんはエリスさんと幸せな人生を送る


 お兄ちゃんはカッコイイ、ダメな妹なんてふさわしくない

  

 最後にこれだけ言わせて


 ありがとう。愛してます』



手紙には涙の跡があった。アリシアとベアトリスのものだろう。


俺は涙が止まらなかった。俺の頬には涙が伝い、鼻がぐしゃぐしゃになっている。


『忘れるものか...アリシアとベアトリスが魂だけになっても...二度と会えなくても...アリシアとベアトリスは俺を裏切ってなんていなかった。忘れない。死ぬまで忘れない。俺には幼馴染の婚約者といつも俺を慕って来る可愛い妹がいた。忘れるものか。俺は忘れない。決して忘れない。忘れないから。アリシアに好きって告白したことも、ベアトリスが拗ねて怒った時に謝って頭を撫でてやった時のことも...決して、決して』


「絶対! 忘れるものかぁあああああああああああ!!!!!」


俺の声が自室に響き渡った。

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