第21話イェスタ

俺とエリスはいつもの様に冒険者ギルドの依頼掲示板の前にいた。

冒険者を始めて1週間、俺達のレベルは10までになっていた。

冒険者の等級もFクラスからEクラスとなっていた。

ふとギルドの中がザワザワとした。

「どうしたんでしょうか?」

エリスが不審に思ったのか口にした。

俺がギルドの入り口の方を振り向くと、そこには、王国騎士イェスタの姿があった。

「あれ、王国騎士団の騎士じゃないか? 俺、初めて見たぜ」

「あれが本物の騎士か」

冒険者達は場違いな来訪者に驚いていた。

目的は多分、俺だろう。俺は緊張した。

当然だ。イェスタは俺と同じ勇者パーティの一員だった。そしてイェスタも俺達を奴隷として売る事に賛成したのだから。

「レオン殿」

イェスタの低い声がギルド中に響く。

殿?

王国騎士のイェスタに平民の俺が敬称をつけて呼ばれる事に疑問を感じた。

場合によっては違う街に行かなきゃ行かんな。

尤も、イェスタをどうにか出来たならだが......

まともに戦って勝てる相手ではない。

などと思ってると、イェスタがつかつかと真っ直ぐに歩いて来た。

「ずいぶんと様子が変わられたが、レオン殿だろう?」

俺はイェスタの方を見た。

さすがに冒険者ギルドの中では滅多な事は出来無いだろう。

「久しぶりです」

俺は無難に挨拶した。とにかくイェスタの意図が解らない。

何より、何故俺達の場所がわかった?

「警戒されるのも無理はない。貴男の事は賢者マリア殿から伺いました。奴隷のエリスと共に出奔されたと聞いたが、本当はエリアスに奴隷として売られたと」

賢者マリアの名前を聞いて俺は少し安堵した。

「イェスタさんはどうしたのですか? その、勇者パーティは?」

「私は勇者パーティを抜けました。それに今は王国騎士でもございません」

一体どういう事だ?

「勇者パーティに男など必要ない。と言えば分かり易いでしょうか?」

俺はますますわからなくなった。

確かに勇者エリアスは俺はもちろん男であるイェスタに興味がある訳がない。

しかし、彼の戦力としての価値は疑う余地はない。

彼はクラス3のルーンナイトのタレントを持つ魔法を使う剣士だ。

「勇者パーティに新しいメンバーが加入したのです。クラス4のタレントを持つ女性の『剣豪』......このままでは私のパーティ内での立場が悪くなると考えました」

「確かにエリアスは戦力として劣る男に興味を失くすか......」

イェスタには失礼かとは思ったが、本当の事だ。

クラス4の『剣豪』は勇者同様最高峰のタレントなのだ。

「残念ながら勇者エリアスとはそういう男です。勇者のタレントと精神は関係ない様だ」

確かにと思った。イェスタの言う事は尤もだと思った。

しかし、だからと言って、何故俺の所に来たんだ?

「イェスタさん。でも何故ここに? 例え勇者パーティを抜けたとしても、あなたには王国騎士としての責務がある筈です」

「それはあなたが虚数の魔法使いだと知ったからです。レオン殿、これより私は貴男に永遠の忠誠を誓おう」

「な、何でそうなるんですか?」

「私の家は1000年前から続く騎士の家系だ。そして当家の初代当主が虚数の魔法使いに仕えていたとの言い伝えがある」

「だから、イェスタさんは勇者パーティを?」

エリスが的確にイェスタの事情を捉えた。

彼女は最近、奴隷という立場ではなく俺に接し始めている。

「王は我が意を汲んでくだされた。当家の家訓には当家の騎士は、虚数魔法が使える者が現れた時、必ずその者に従うとある」

「何故そこまで、家訓だなんて......」

「我が家には口伝での言い伝えが残されています。それによれば、1000年前に現れた虚数の魔法使いは魔王を滅したと......」

『!』

俺は驚いた。勇者ですら、魔王を封印するのがやっとだ。それを滅ぼすなんて......

「私はもう勇者エリアスにはついて行くことは出来ない。貴男は知らんことだろうが、勇者エリアスとアリシア殿、ベアトリス殿の今の戦い方は卑怯そのものだ。先日も魔族を滅ぼす為、エリアス達は魔族の子供を人質にとった。そして、子を思い、手出しが出来ない魔族を彼らは無残に殺した。そればかりでは無い、瀕死の魔族の前で、エリアスは魔族の子を嬲り殺しにしたのだ。騎士の私には耐えられない、あの様な鬼畜の所業。もはや私は貴男にこの身を懸けるしかないのだ」

エリアスやアルシア、ベアトリスはそんな酷い戦い方をしていたのか......

「レオン殿、私を貴男のパーティに加えてくれ。古の誓いにより、私は貴男に永遠の忠誠を誓う」

俺は少し逡巡した後、イェスタを仲間に加えようと思った。

彼は信頼できる。そう思えた。

「わかりました。仲間になってください。でも、レオン殿は止めてください。私はあなたに何度も助けられてます。お願いですから、せめてレオンと呼んでください」

「かしこまりました。それでは、私の事もイェスタとお呼びください」

王国騎士だった彼を呼び捨てにするのには抵抗を感るが、それでも彼とは分かり合える仲間になれそうだ。

「エリスもいいかい?」

「はい、イェスタさんは優しいから。私は好きです!」

俺は安心した。イェスタは奴隷だったエリスにも優しかったのだ。

彼の人間性を肯定できる証拠だ。

「これからよろしくお願いします」

こうしてイェスタが俺達のパーティに加わった。

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