第4話アリシアは変わってしまった

明くる日の朝、アリシアの方から馬小屋へ訪ねてきた。


「おはよう......本当だったんだね。今は馬小屋で寝泊りしてるって」


「ああ、エリアスに言われてね。部屋が取れないらしい」


「......そんな」


そんな......なんて事は無い。ただ、俺へのこのパーティの待遇は馬小屋で十分という事だ。


「気にしないでくれ。俺はあまり困っていない。アリシアの方こそ大変だろう? 魔族の討伐で勇者エリアスと打ち合わせがいるんだろ?」


勇者エリアスの名前が出て来るとアリシアはびくっと震えた。


「今日は私、特に用事無いから......だから、今日はレオンと久しぶりに話したくて......」


俺は訳がわからなくなった。


「悪い、俺、今日、いろいろやる事があって。サポーターでもやる事は色々あるんだ」


俺はつれなくそう言った。本当はアリシアと話したかった。


でも、俺はアリシアと勇者エリアスの関係を知ってしまった。


素直になどなれる筈がない。


そこまで悟りきることなんてできないんだ。


「ちょ、ちょっと待って! お願いレオン!」


「.................」


俺は無言になった。アリシアに無言で返した事など一度も無い。


「久しぶりに一緒に話そうよ! わ、私、レオンと昔の事を話したくって!」


「俺と話す事なんてどうでもいいんだろ? 今は勇者のエリアスの事で頭がいっぱいなんだろ?」


俺は直球で突き放した。


正直、こちらの方が泣き叫びたい気分だ。


アリシアは下を向くと、アリシアは再びびくんと震えた。


「そうよ、エリアスはかっこいいし、地位も名誉もあるわ、あなたと違って!」


アリシア、やっぱりそんな風に思っていたんだ。俺はアリシアを追求する事にした。


「俺、2日前、エリアスの隣の部屋に泊まってたんだ。お前達が何をしていたのか全部知ってるんだぞ!」


俺は涙声になってきた。


「あなた出歯亀してたのね! 役立たずの上、人の愛の営みを覗き見るなんて最低よ!」


「アリシア、君は俺の事を何だと思ってるんだ?」


「足でまといのただの役立たずよ!」


「俺は君の婚約者なんだぞ! それなのに君は......」


「そんなの知らないわよ。私が愛しているのはエリアスなの、あなたじゃない!」


アリシア、何処までおかしくなっているんだ。いくらなんでもおかしいだろう?


「俺がどれだけ惨めだったと思うんだ。お前は侍で、俺は役立たずだ。ああ、男としてエリアスの方がいい事位俺だってわかっているよ。でも、お前は将来を誓いあった婚約者じゃ無いか? それなのにお前は俺を裏切ったんだ! まずは俺に謝って、婚約を解消する方が筋だろう? それなのに、居直るのか?」


「当たり前でしょ、あなたと私では身分が違うの! たまには優しくしてあげようかと思ったのに、つけあがらないでよ!」


「俺とアリシアでは身分が違うのか? 馬鹿にするな!」


俺はアリシアに心底怒りが満ちた。こんな酷い女の子じゃなかった筈だ。


浮気しておきながら、開き直り、平然と俺とは身分違いだなんて、そんな話あるか?


馬鹿にするなよ。どこまで馬鹿にするんだ?


「あなたにはね。ここらで故郷に帰ってもらおうと思って、話しかけただけなのよ」


......そういう事か。


俺は本当は最後の言葉にほんの少しだけ期待を寄せていた。


もう、ほんの僅かな期待だった。


「俺、昨日言ったよな? 俺はアリシアの事、好きだって......アリシアは答えなかった。俺は辛かったよ。君からの私もよと言ういつもの言葉を聞きたかった。アリシアは俺と一緒に育った頃の事忘れたのか?」


「......そんなの覚えている訳ないじゃない」


信じられない事にアリシアは俺にとって大切な思い出を忘れたと簡単に言った。


俺の幼馴染はもう変わってしまった。もう、俺の知っているアリシアはいないんだ。


その事実が心の奥に染み入っっていった。


その日の夜もエリスの胸の中で泣いた。


エリスはまるで女神の様に優しく俺を包んでくれた。


アリシアが憎かった。だけど、アリシアには戻って来て欲しかった。


例え、エリアスと間違いを犯したとしても、俺はアリシアに戻って来て欲しかった。


だけど、今のアリシアはもう、昔のアリシアじゃない。


ほんの数ヶ月で彼女は変わってしまった。


アリシアやベアトリスが勇者エリアスに連れられて、王都や都市の貴族の晩餐会に行くのを見た事がある。


二人共、綺麗なドレスを身に纏って、まるでお姫様の様だった。


俺にはそんな金も権力も名声もない。


アリシアは俺が子供の頃プレゼントしたおもちゃのネックレスをいつも身につけていた。


今は、エリアスからもらった、本物の宝石のネックレスを身につけている。


ああ、俺はエリアスとは比べ様がない。


アリシアとエリアスはお似合いなんだろう。


だけど、二人で一緒に育った、あの思い出をアリシアは忘れられるのか?


俺はどんな事があっても忘れられない。


俺はただ、泣き続けた。そんな俺をエリスは頭をさすり、慰めてくれた。

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