午前三時の小さな冒険

新吉

第1話 午前三時の小さな冒険

 四角いライトがつきました。午前三時の狭い部屋。ライトで照らされた彼女は眩しそうに顔をしかめ、とても不細工です。眠そうでしたが次第にパッチリと目を開けて画面を見つめ始めます。そのうちむくりと起き出して、部屋を出ていきました。



「ちょっと寒いかな」



 呟きながら、上着を羽織りスウェットのまま外へ行きました。鍵をしっかりとかけて。午前三時の広い空、星が綺麗です。澄んだ空気は肌寒く、それでも彼女はそのまま歩きだしました。アパートの向こうには田んぼが広がります。少し前田植えが終わったばかりのたぷたぷの水面に、街灯の灯りが写っていました。まだ蛾は飛んでいません。鍵をくるくると回しながら、誰もいないまっすぐな一本道を時々スキップしながら歩いていきます。小声で歌を歌っている様子です。


 徒歩、時々スキップで五分ほどでコンビニにたどり着きました。飲み物とお菓子だけ買って、同じ道を歩きます。彼女は家にたどり着くと、鍵をしっかりとかけました。



「よしはじまりの冒険クリアだ」



 彼女はうれしそうに呟きました。彼女の部屋のカーテンは閉まったまま。彼女の部屋の玄関は自分と宅配の人以外は開きません。


 彼女はポケットにいれていた四角いのを出しました。そこにはこう書かれていました。


 はじまりの冒険

 最寄りのコンビニに行ってみましょう

 話したくない場合

 頷きと首振りを使いましょう

 徒歩で行くなら不審者避けに歌いましょう

 運転なら飲酒はいけませんよ

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