⑫
エマが放った渾身の爆発によって、セージ・タチバナが生み出した迷宮は粉々に吹き飛んだ。
どうやら迷宮は学園付属の図書館の地下にあったらしい。地盤が吹き飛んだことで図書館も崩壊して地下に沈むことになった。
幸いにして人的被害はなかったものの、この図書館にしかない貴重な書物が多く失われて魔法の研究が十年は遅れることになった。
「し、死ぬかと思いました……」
「いっそ死んでくれたほうが世界のためになった気がするんだけどな、君の場合」
「え? 何か言いましたか?」
「別に……」
自爆テロの主犯であるエマであったが、なぜか傷一つなく無事な姿でガレキの下から這い出てきた。
この恐るべきドジっ子がどうしてこの年齢まで生きてこられたのか不思議に思っていたが、どうやら凄まじいほどの悪運に恵まれているらしい。
「それで、体に異常はないのか?」
「全然ありません! それどころか絶好調ですよ!」
不完全ではあるが、エマは学園の創設者セージ・タチバナの遺産を引き継いだ。
それは巨大な魔力であり、時空魔法をはじめとした希少な魔法の知識と技術である。
かなり反則的な方法ではあったが、エマ・カローラは階段を三段飛ばしで賢者へと昇りつめたのであった。
「やれやれ……どうやら、これで俺の教員生活も終わりみたいだな」
今のエマであれば実技の授業も十分にこなすことができるだろう。
これで臨時教師クロノス・ルブランの役目も終わりだ。
「ま、それなりに楽しかったよ…………じゃあな、セント・タチバナ魔法学院」
いつの間にか日が暮れており、ガレキとなった図書館の向こうに夕日が沈むのが見える。
真っ赤な夕日に背中をさらして、クロノスは学園に別れを告げたのであった。
そのはずだったのだが……
「うっうっうっ……えぐ、えっぐ……」
「……何してんの、君?」
「うう……クロノスせんせえ……」
それから1週間後。
行きつけの食堂のカウンター席で、酔いつぶれているエマを発見した。
正直、無視して店から出ていきたいところであったが、店主の訴えるような目に根負けしてカゲヒコはエマに声をかけた。
「聞いてくださいよお……わたし、このままだと学園をクビになっちゃうんですう……」
「図書館を沈めたのがバレたのか? だったら自業自得だろ」
「違いますよう、あれだって事故じゃないですかあ……」
話を聞いてみたところ、エマがクビになりかけている原因は実技科目をうまく教えられないことが原因らしい。
「何でそうなるんだよ。今の君は賢者級の魔法使いのはずだろ?」
「それが……強すぎるんです」
「はあ?」
「魔法が強すぎて使いこなせないんですよ!」
いくら巨大な魔力と知識を手にしたとしても、エマ・カローラという女がポンコツのドジっ子であることに変わりはない。
賢者級の魔法使いとなってからもその力をまるで使いこなすことができず、逆に力に振り回されていた。
「この間なんて、うっかり教え子の手を吹き飛ばして……」
「何してんだ、お前は!」
「ふえええええええええんっ!」
どうやら、絶対に力を手にしてはいけない女を賢者にしてしまったらしい。
幼稚園児に核ミサイルの発射スイッチを握らせてしまったような、取り返しのつかないミスをした気分がカゲヒコを襲う。
「お願いですから戻ってきてくださいよう! このままだと本当に生徒を殺しちゃいますよう! 時々で良いですから私の代わりに実技をやってください~~~~~!」
「は……はははは……」
カゲヒコは乾いた笑い声を上げた。
どうやら、クロノス・ルブランの教員生活はもうしばらく続くようであった。
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