③
かつては大勢の人間が行き来したであろう街道は鬱蒼とした草でおおわれている。
それでも、なんとか緑をかき分けながら進んでいくと、目指す「サブロナ城」が見えてきた。
「あれがかの有名な幽霊城か。なかなか雰囲気が出てるじゃないか」
ツタに覆われた廃城を見上げて、カゲヒコはしみじみとつぶやいた。
死者の巣窟になった廃城は建物全体が黒いオーラに包まれていて、生きとし生ける者の侵入を拒んでいるようにも見える。
「そうですね。いかにも幽霊が出そう・・・というか、出るんですよね」
「ああ・・・・・・ところで、サーナ。何でここにいるんだ?」
何故か後ろからついてきたサーナを、カゲヒコは半眼になって睨みつけた。
サーナは普段のウェイトレス姿ではなく、闇ギルドのコスチュームらしい衣装を身につけている。ぴっちりと肌に張り付く素材で作られた黒いキャットスーツは胸元が大胆に開いており、なんとも色っぽくて煽情的である。
もっとも、それはその衣装を着ているのが幼児体型のサーナでなかったらの話なのだが。
「・・・カゲヒコさん。言いたいことがあるのならはっきり言ってもいいんですよ?」
「わかった・・・自分の体型を考えて服を着ろ、この貧乳が。お前ごときが峰不二子みたいな恰好をするなんて百年早い」
「はっきり言い過ぎですよね!? そこまで言えなんて言ってませんよ!?」
「結局のところさ、女は胸が大きければ何でもいいと思うね」
「知りませんよ! 女の敵はぶち殺しますよ!?」
どうやら胸のことは本当に気にしているらしい。だったら、なぜバストを強調する服を着るのだろうか・・・。
「で? 本当は何でついてきたんだ?」
「もちろん、カゲヒコさんの・・・怪盗シャドウの仕事をサポートするためですよ!」
「いらねえ。足手まといだ」
まがりなりにも勇者パーティーにいたことがあるカゲヒコにとって、中途半端な力しかないパートナーなどいない方が動きやすい。サーナがどの程度の実力かわからないが、勇者パーティーほど戦えるとは思えない。
「戦闘のお役に立てるとは思っていませんよ。私は外から怪盗シャドウを誘導させていただきます」
「誘導?」
「はい、実は財宝がある場所は調べてあるんですよ。城の見取り図もありますし、遠隔誘導させていただきます」
そう言って、サーナはビー玉サイズの水晶玉を渡してきた。これは2つで1組のマジックアイテムで、対となる玉を持っている人間と離れた場所から会話をすることができるものだ。会話可能な距離は1kmほどだが、これくらいの大きさの城であれば十分だろう。
「ふうん、それじゃあ任せてみるか」
「はい、任されました。それではお気をつけて」
カゲヒコは銀仮面と黒マントを身につけて怪盗シャドウに変身する。
大陸を騒がす稀代の大泥棒は、死者に支配された廃城へと颯爽と飛び込んでいった。
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