⑥
集落の奥から現れた2体目のゴブリンジェネラル。絶望的な光景を目の当たりにして、冒険者達は凍りついた。
しかし、絶望はそこで終わらなかった。
「違う・・・もっと、いる・・・」
ライムが震える声でつぶやく。彼女の言葉通り、集落にあるあばら家の中から3体目のゴブリンジェネラルが現れた。
「そんな・・・嘘でしょ?」
メルティナが呆然とした声で言う。
ゴブリンジェネラルというのは数年に一匹現れるかどうかというレアモンスターである。それが同時に3体も現れるなんて、聞いたことがない。
「撤退する! お前達もすぐに離脱しろ!」
黒鎧の冒険者の決断は速かった。即座に倒れているリーダーの元へと駆け寄り、スクロールを開く。他の二人が集まってきたのを見計らい、
「スクロール【帰還】!」
スクロールに書かれた魔法を発動させる。それは事前に登録しておいた場所へと、一瞬で転移する魔法で、冒険者がよく使用するものである。
『黄金』の冒険者達の姿が掻き消え、集落から消える。
「私達も逃げるわよ! みんな、そばに来て!」
「わかりましたの!」
「ん・・・しかたない・・・」
さすがのライムもこの状況で戦おうとはせず、黒鎧の冒険者と同じように【帰還】のスクロールを開いたメルティナの傍へと近づいた。
しかし――
「あ・・・」
集落の奥から、一匹のゴブリンが現れた。
ゴブリンジェネラルよりも一回り小さく、成人男性と同じくらいの大きさのゴブリン。突然変異なのか、その肌はゴブリン特有の緑ではなく赤色をしている。
「あ、あ、あ・・・あああ・・・」
赤い色のゴブリンの姿を見て、ライムの脳裏に幼い頃の記憶がよみがえる。
ゴブリンに襲われる村。燃える家。自分と姉を逃がすためにゴブリンに立ち向かう父と母。
手を取り合って逃げる姉と自分。しかし、すぐに捕まってしまい、姉はゴブリンに・・・
「姉さんの・・・仇・・・!」
「ライム!?」
「あああああああああああああ――っ!」
ライムが赤いゴブリンに向けて走り出す。スクロールの範囲外へと飛び出していく仲間へと、メルティナとカティは手を伸ばす。
「くっ・・・」
しかし、そんな二人の前にゴブリンジェネラルが立ちふさがる。
「ライム・・・!」
メルティナは決断を迫られた。ライムを追いかけてゴブリンジェネラルと戦うか、彼女を見捨ててこの場から離脱するか。
「ギー、ギー!」
「ギャッ、ギャギャギャッ!」
他のゴブリン達が集まってくる。二体のゴブリンジェネラルと戦いながら、他のゴブリンの相手をする。それはどう考えても不可能だった。
「・・・ごめんなさい。ライム」
「そんな! サブリーダー!?」
メルティナは非情な決断を下した。悲鳴を上げるカティに構わず、メルティナはスクロールを発動させてその場から転移した。
転移する直前に二人が最後に見たのは、ゴブリンジェネラルに押さえつけられ、地面に倒れたライムの姿だった。
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