④
膝をついたまま数字をカウントしているカゲヒコに対して、騎士団長が眉をひそめて問いかける。
「それは何の数字だ、賢者クロノ?」
「8・・・7・・・6・・・」
カゲヒコは騎士団長の言葉に応えることなく、数字のカウントを続ける。無視された騎士団長は表情を歪めて怒鳴りつける。
「なんの数字だと聞いている! 答えろ!」
「・・・3・・・2・・・1・・・はい、ドン」
パアンッ!!
カゲヒコは騎士団長の問い詰めに応えることなく、カウントを終えた。
次の瞬間、玉座の間に破裂音が響き渡った。
「ひぎゃああああああああっ!?」
「陛下!?」
国王が手にしていた【魔封の王錫】が音を立ててはじけ飛んだ。木製の錫杖の破片が近距離から国王の手や顔に突き刺さる。
「ち、血が・・・ワシの顔から、血がああああああっ!?」
「へ、陛下!? しっかりしてください!」
「【魔封の王錫】、魔力を封じる力を持つオーバーアイテム。俺みたいな魔法使いにとっては天敵みたいなマジックアイテムだ。それを魔王城から持ち帰ってきて、あんたらに献上したのは俺達だぞ? 自分に向けられたときのための準備くらいしてるっての」
「き、貴様!」
嘲るような口調で説明するカゲヒコ。騎士団長は憤怒の表情を浮かべて剣を抜き放つ。しかし、そこにはすでにカゲヒコの姿はなかった。
「第4階梯魔法【
「ひ、ひいいっ!?」
カゲヒコは玉座から転げ落ちた国王のすぐ傍へと魔法で移動して、手や顔から血を流してうずくまった老人の身体を足で踏みつけた。
「ふぎっ!? ぶ、無礼者! ワシを誰だと思って・・・」
「ただの人質、今はな」
「人質だと!? 陛下から離れろ!!」
「そういうわけにはいかないな。騎士団長、この王様の命が欲しかったら近づくなよ。色々と恨みもあるし、殺っちゃうよ?」
「くっ・・・」
騎士団長とて国で一番の剣の達人。正面から戦えば、勇者とだって互角に近い戦いができる自信がある。
しかし、自分が目の前の賊に斬り込むよりも、人質となった国王の命が奪われる方が速いだろう。
「要求は何だ・・・?」
「別に無茶な注文なんてしない。俺の話を最後まで聞くこと、ただそれだけだ」
「話だと? 貴様の話を聞く価値など・・・」
「ひぎゃあああっ!?」
「くっ!」
カゲヒコは足の下の国王をげしげしと踏みつける。潰された老人の口から哀れな声が漏れる。
「聞く気になったかね、騎士団長くん?」
「くっ・・・さっさと話せ!」
「よろしい」
カゲヒコは頷き、勇者パーティーと騎士達が見守る中で両手を広げた。
「ブレイブ王国は俺達勇者パーティーを利用するだけ利用して、約束を違
たが
えた。もうこんな国のために働いてやる義理はない。俺は好きなようにやらせてもらう」
「好きなようにだと!? 国王陛下にこんな狼藉を働いておいて、これ以上何をするつもりだ!?」
騎士団長が怒鳴りつけるが、カゲヒコはどこ吹く風とばかりに受け流す。
「本日をもって賢者を引退する! 俺は賢者をやめて、怪盗に転職する!」
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