デスマーチから始まるバブルはスマートフォンとともに
十九
例年より少し遅めの梅雨明けを迎えようとしていた七月三十日の秋田県。
博たち五人の一行は県内の山中を訪れていた。
早朝に東京を出発してからもう昼過ぎだ。車がすれ違うのもやっとの細い山あいの道路から、登山道のような未舗装の道に入り、さらに獣道へとそれ、その道もどきも今は途切れがち。前後左右、足もとも頭上も鬱蒼とした草木が生い茂る。
趣味が高じてサバイバルの知識・経験が豊富な不藁ひとりだけが、不安も疲労も見せずきびきび先頭をゆくが、計画の総指揮をとる博を除けば、ほかの三人は心もとないことこのうえなし。もしはぐれて
季節的に凍死はしないと思うが、熊も元気にうろついているだろう。秋田では出没するのだろうか。拓海はネットで調べようと端末を出しかけて、やめた。なにしろ当面の生活用具一式を抱えて一時間近く山を歩きまわっているのだ。不藁以外のインドア勢は、気温と湿度でふらふらだった。
葵にいたっては睡眠不足が加わって千鳥足。不藁に荷物を持ってもらい、伯父と千尋に代わる代わる手を引かれるありさまだ。昨晩、寝つけない葵が夜ふかしをしていたと妹から聞いていた博は、だから寝ておけと言ったんだ、と小言を言う。――だって、昨日の夜も新幹線もテンション上がって寝られなかったんだからしょうがないじゃない。ぼうっとする脳内で少女は口答えした。
今朝、母親の車で横浜駅まで送ってもらったときの彼女はひどく眠たげで、都内の集合場所へ向かう車内では伯父に寄りかかり寝入っていた。
が、上野で拓海たちなどほかのメンバーと合流したとたんに眠気は吹き飛び、秋田までの新幹線内では終始はしゃぎっぱなし。今になって睡魔に襲われるとは思わなかった。疲労と暑さとまとわりつく蚊も加わって、都会暮らしの現代っ子にはありえない
なぜなら、首都圏から秋田くんだりやってきた理由は葵自身にあったからだ。
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