第49話 奇縁の場所で

「助けてくれって、どういうこと?」


 いきなりのSOS。わけがわからず訊くと、電話口からは返ってくるのは切羽せっぱまった声。


『どういうこともないんや。とにかく助けてほしいんや』


 まったく意味が分からない。相変わらずベルの話はいつも急で、しかも要領ようりょうを得ない。


「簡単にでいいから、説明してくれない?」

『そんな時間はないんや! とにかくヤバいねん!』

「いや、ヤバいだけじゃわかんないってば」

『ええから! とりあえず、駅前まで急いで来てほしいんや。話はそれから――ザザッ!』


 ベルの声をぶつ切りにするようにノイズが走る。そして再び通話がつながったかと思えば、


『あっ、ちょい待ち……って、うわああああっ!』

「ちょっとベル? ベルっては!?」


 黒猫を呼ぶ。けれど返ってきたのは「ブツン!」という音。画面を見れば「通話終了」の文字。

 かけなおす……も、無機質なコール音が続くだけ。


「――もうっ!」


 私は苛立いらだちを乗せた足どりで、駅へと向かうことにした。乃亜のあさんの家に背を向けて。


 なんなのよ。いつもベルはいきなり振り回してくるんだから。

 ただでさえ乃亜さんのことでいっぱいいっぱいなのに……。


 でもベルのあの慌てよう、なにかトラブルがあったことは間違いない。電話もつながらないってことは、きっと緊急事態なんだろう。


 そういえば、初めて連絡があったときも開口一番「助けてくれ!」だったっけ。

 あのときは、ベルが怪人を暴れさせていて。すぐさまやってきた魔法少女との戦いへの加勢を求めてきた。


 じゃあ、今回も?


「ホワイトリリー……?」


 魔法少女。悪の組織の宿敵。


 ……いや、それはない。


 彼女は、乃亜さんは、今戦える状態じゃない。それはエリーさんも、乃亜さん自身がよくわかっているはず。


 じゃあ……いったいなにが?


 駅へと向かう歩調は早まる。そうさせているのは、ベルが呼んでいるからというよりも、おなかの奥でざらつく焦燥しょうそうからだった。


 でも、もしホワイトリリーが、乃亜さんが疲労ひろう困憊こんぱいの身体にムチを打って戦っているんだとしたら。


 私は――どっちの味方をすればいいんだろう。


 迷い。後ろめたさ。自己嫌悪。


 そんな感情がぐるぐる渦巻いたまま、駅が見えてくる。


「ベル、どのあたりにいるんだろ」


 たぶん駅前広場のどこかだとは思う。初めて私が魔法少女と悪の組織の戦いを目の当たりにして。乃亜さんと遊びに行ったときに、待ち合わせた場所。こうしてまた呼ばれたあたり、もしかしたら奇妙な縁があるのかもしれない。

 けれど駅前広場、とひとことで言っても面積はそれなりに広い。人通りが多かったら小さな黒猫を探すのは至難の技だ。


 もう一度電話してみようかな。


 なんて考えは、駅前広場に到着した瞬間、ガラス細工のように粉々になった。


 私は目を見開く。


「これは……」


 普段はたくさんの人でにぎわう場所。そこには。


 3体の怪人が、暴れまわっていた。

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