第37話 念願の・・・?
牛丼怪人の体当たりによって、ホワイトリリーの身体は数メートル弾き飛ばされた。
「ギューッ! ドンッ!」
ガッツポーズをとる怪人。対するホワイトリリーは距離をとるように、くるりと宙を舞って着地して、
「不意打ちだなんて……でもそんな攻撃、きかないわ!」
正義の味方らしく堂々と言い放つ。だけど、その表情には
「よっしゃ! 成功や!」
「ほっほっほ。うまく魔法少女の気を引いてくれたおかげじゃのう」
状況にご
そう。これが作戦その2。
『――
『そうです! あくまで魔法少女と戦うのは怪人。それを有利に進めるために、千秋さんには注意を引き付けてもらうんですよ』
『ほう、なかなかええ作戦やな』
『で、でも私、囮役なんてやる自信ないですよ』
『んなもん、ホワイトリリーに気づかれへんようええかんじにしゃべったらええねん』
『そんな適当な……』
いいかんじにしゃべる、なんて芸当、陰キャの私にはできるはずもない。なので結局、プリピュアに出てくる悪の女幹部のセリフを真似ることくらいしか思いつかなかった。恥ずかしくて死にそうだったけど。
まあ、うまくいったからいっか。
「このまま一気にいくで! ハカセ!」
「うむ、ゆくのじゃ!」
攻撃が当たったことが相当うれしかったのか、テンションアゲアゲ。そんなふたりに隠れるように、私は再び木の陰に隠れて戦いの行く末を見守ることにする。
作戦は順調。私の役目はここまで。
あとは、私の読みが当たるかどうか、だ。
「もう1発お見舞いしてやるギューッ!」
「そうはさせないわ!」
突進してくる牛丼怪人をホワイトリリーは待ち構える。もう攻撃は受けない、とでも言うように、右手に持ったステッキを掲げた。すると、みるみるうちに先端に光が集まっていく。
あれは……。
間違いない、ビーム攻撃だ。
前回のハンバーガー怪人が一撃でやられたことを考えると、おそらくホワイトリリーの得意技にして必殺技。
つまり、当たればその時点で
「えいっ」
かわいらしい声とは裏腹に、
「――ギュッ!」
どん、という音とともに
牛丼怪人が立っていた。しかも無傷で。
「まさか、外した……?」
ホワイトリリーは目を丸くしている。その様子を見ると、これまで怪人相手には百発百中だったことは容易に想像できる。
けれどさすがは魔法少女、すぐに我に返ると、
「今度こそ」
ウィンクするように片目を閉じて、ステッキでしっかりと狙いを定める。そして再び放たれる鋭い光。まるで録画を再生しているかのように、一直線の光が牛丼怪人へと襲いかかる。が、
ひょい。
私の目に映ったのは、およそどんぶりに手足が生えただけとは思えない華麗な動き。今までの怪人とは比べ物にならないキレのよさだ。土煙でわからなかったけれど、さっきも同じように避けたんだろう。
「うそ……」
またしても驚くホワイトリリーに、牛丼怪人は嘲笑うような鳴き声を出して、
「ギューッギュッギュッ! どこを狙っているんだギュー?」
「なっ」
「魔法少女も大したことないギュー」
「むむむ……」
かわされて、しかも挑発されるなんて思いもしなかったのか、むくれた顔になる。うーん、怒っててもかわいい。
「悔しかったら当ててみるギュー!」
「むっ」
少しだけ顔を赤くしながら(やっぱりかわいい)、もう一度ビーム攻撃。心なしか、さっきまでよりもスピードが速い。これで終わりにする、そんな意思が伝わってくるみたいだ。
けれど、
「ギュッ!」
ひょい。
「「……」」
「えいっ」
「ギュッ」
ひょい。
「「…………」」
「えいっ」「ギュッ」ひょい。
「てやっ」「ギュッ」ひょいひょい。
「それっ」「ギュッ」ひょいひょいひょい。
――……。
いったい何発のビームをうったのだろうか。途中から数えるのがバカらしくなってきた。
そんな数えきれないほどのビームだけど、牛丼怪人には一発たりとも当たらなかった。
「なーっはっは! どや、ホワイトリリー!」
さっきと比べてますます調子づくベル。
そして様子が違うのは、目の前の黒猫だけじゃなかった。
「はあ……はあ……」
「ホワイトリリー……?」
息が、上がってる?
てことはやっぱり、
「ベル、今がチャンスかも」
「ほんまか?」
「うん」
「ならば
「ギューッ!」
ハカセの声に呼応した牛丼怪人が、ビーム攻撃を避けたときと同じ速さであっという間にホワイトリリーとの距離を詰める。
「なっ」
「ギュギュギュ。うまい、やすい、はやい……」
どこかで聞いたことのある単語を並べて
「つゆだくアタック!」
くり出されたのは、全体重をのせた体当たり。
「きゃっ」
直後、またしてもホワイトリリーは後ろに飛ばされる。今度はうまく着地することもできずに、その場にひざをつく。輝かしかった純白の衣装は、土ですっかり汚れてしまっていた。
額に浮かんだ汗をぬぐいながら、
「こ、こんなところで負けるわけには」
そこまで言ったところで、
「……!」
ホワイトリリーが目を開くのがわかった。だけど、さっきまでのように驚きの感情とはまた違う気もする。
耳をすませば「でも……」「……!」「……それじゃあ」なんて声が聞こえてくる。
誰かと話してる? でも周りには誰もいないし……。
なんて考えていると、ホワイトリリーはすくっと立ち上がる。
そして、
「きょっ、今日のところは見逃してあげるわ!」
ぽんっ、と小気味のいい音とともに白い煙が彼女を包んだ。
「な、なんや?」
「何も見えんのじゃ」
もくもくもく。10秒くらい経っただろうか、煙が晴れると、
「……いない?」
ホワイトリリーがいた場所には、誰の姿もなかった。言い換えれば、グラウンドに残ったのは、私たち。つまり、悪の組織のメンバーだけ。
「これって……」
「……まさか」
「うむ、そのまさかじゃ」
「間違い、あらへんよな……?」
何よりもこの状況が、それを明確に示していた。
それがなんなのかは、言うまでもない。
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