第8話 こっそりアニメ見るのって、ドキドキするよね

「オ~ッホッホッホ! 今日こそは覚悟なさい!」


 ボディラインを強調する真っ黒なボンテージ服に身を包みながら、どこまでも響いていきそうな高笑い。


「くっ……」


 対するは、ひざ立ちで苦悶くもんの表情を見せる魔法少女。しかしその瞳に絶望はなく、まっすぐと敵の姿を見据みすえている。


「……負けないわ」

「あらあら、強がりは余計にみじめに見えるわよ? 素直に諦めなさいな」

「諦めないわ。……あなたがどんな卑怯ひきょうな手を使ってきたとしても……」


 言って、立ち上がる。


「私は夢と希望の魔法少女、絶対に負けないんだから!」

「オ~ッホッホッホ! あなたも聞き分けが悪いわね! なら身体に直接教えてあげるわ!」


 再び声高々に笑うと、ボンテージ服からはみ出んばかりのおっぱいの谷間から、これまた黒塗りのむちを取り出して、


「食らいなさい!」


 魔法少女めがけて鞭をしならせる。が、魔法少女はそれをすんでのところでかわし、華麗かれいに宙を舞う。


「ええい、ちょこまかと!」

「今度はこっちの番よ!」


 そう言って人差し指を伸ばし、右手を銃の形にする。言わずと知れたそれは、彼女が得意技を放つポーズ。みるみるうちに指先にまばゆい光が集まっていき、


「シャイニングスター!」


 技名を叫ぶ、と同時に光がビームとなり、まっすぐ敵に向かっていく。


「ちょっ、まっ、タイム! 待った待った!」

「待ったなんて、なしなんだから!」

「ほんと、ちょっとでいいから待って……うぎゃあ――


 ぶつり。


 そこで、私は一時停止ボタンを押した。


「はあ……」


 息を吐きながら脱力して、ソファにもたれかかる。画面には、主人公、魔法少女プリピュアのシャイニングスターを真正面から食らっている敵組織の女幹部。ぼいんぼいんのおっぱいとムチムチの足をさらけ出して、表情はどえらいかんじになったまま静止していた。


 そう、こんなエロすぎるボンテージ服を着ているのは、テレビアニメのキャラ。


 断じて私じゃない。


 大事なことだからもういっかい言っておく。


 私じゃない。

 

 安息の週末ともいえる土曜日。私は朝からリビングで録画したプリピュアを見直していた。

 大好きな戦闘シーン。最後は勝つとわかっていても、魔法少女オタクとしては手に汗握って見ずにはいられない。

 おまけに、お母さんもお父さんも出かけているから誰の目も気にせず視聴できる。いつもなら夜中にヘッドホンをしてこっそり見るところだけど、今日は音の心配をする必要もない。


 誰にも邪魔されずに趣味を満喫まんきつ――しているはずなのに、私のテンションは絶賛低空飛行中だった。


「それもこれも、あんなことが起こるから……」


 誰に言うでもなく独りごちて、私はソファにもたれかかる。

 そう、すべての原因は、昨日の出来事にある――。

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