水道局の思惑

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水道局の思惑

がたがたがた。ゴトゴト。

今日も国家水道局は市民の元に生活必需品:水を供給している。

水道局は1933年に設立されて以降、信じられないほどの知名度と信頼を得ている。

深夜になっても光は煌々と灯り、誰かしらが昼夜逆転をいとわず働いている様が客観的にも見て取れる。


「皆さんの生活は今後数年安泰になるでしょう。この度私共が立ち上げた新ビジネスは社会で忙しい毎日を送っている皆様に寄り添い、健康な毎日をサポートします。是非ともご贔屓をお願いします。」


X市ではこのような広告が水道局から永遠と放送される。

一日に何度も何度も放送されるため、市民の中にはうんざりしてテレビ局との契約を破棄してしまう者もいるが、熱狂的な市民が一定数存在しているためにCMの勢いは一向に衰えそうにない。


私はこの水道局のことを全くと言っていいほど信頼していなかった。理由はとても単純明快だ。それは、一般的な水道局を超える、または超越するといったほうが正確かもしれないが、異常なまでの人気を博していたからである。

加えて、水道局から水を引いている市民の殆どがその異常さにほんの少しの懸念をも抱かないことが常に私を懐疑的にしたのである。


私は一度だけ勇気を振り絞ってある知人に水道局の良さを聞いてみたことがある。

しかし、彼は怪訝そうな顔で私の目を睨みつけ「何が気に食わないの?」というだけだった。私には世界がモノトーンになったように感じられた。

原因は全くわからないが、質問に解答してくれた友人の顔はもはや「彼自身の表情」があるようには見えなかったからなのかも知れない。または、揺らぐ世界の物理法則に私が打ちのめされていただけなのかも分からない。

だが、唯一事実なのは、私が知っている町並み、知人の顔は流動的な何かにまるっきり包まれてしまったかのようだということだ。


ともかく当時の私は水道局についての興味を退ける事が出来なかった。「惹きつけられた」というのが正確だろうか。ともかく水道局のパンフレットを根掘り葉掘りするように詮索し続けたのだ。


そうしてある一つ。いやただ一つの事実に到達した。

水道局が「色付きの水」を家庭に供給していたということである。


ただ、自身の家の「水」は全く濁ってもいないし一貫して無色であるため、私は特殊な水が当人の視覚には捉えられないという仮説をたてることしか出来なかった。


これを知った当時の私は自制・自粛という言葉など脳裏から追い出してしまって、熱心に友人の家庭、親戚の家庭、更には全然知らない人の家庭に片っ端から訪問した。

それぞれの家庭は核家族だったり母子家庭だったりしたし、全く構成自体には類似点・相違点は依然見つからなかった。しかし後に、全てが終わった1945年に、私は気づいたのだ。


彼らの性格がどことなく「水道の色」に似ていたということに。


柔和な性格な人、激昂して家に入れることすら無礼だとする人、知的さに満ち溢れている人などそれぞれいたが、彼らは順に「緑の水」、「赤の水」、「青の水」を水道局から享受していた。

彼らは私同様に自身の水道が着色されている事実をしる術を持っていなかった。

しかし彼らはそれに甘んじて理解をしようとすることを拒み、私の「憶測」が反社会的であると一辺倒に突き飛ばしたのだ。



がたがた。ゴトゴト。

もはや水道局は古びてしまっていて、健康安全管理・水質管理生どうたらこうたらの問題だと言って営業をしていない。

今は廃業に至る寸前ということだ。


しかし今となって一つ思い出すことは、「私の色」のことだ。

私は確か、仮説を証明するために人々に私の「水道水」を見せて回った。

その時の彼らの声と顔の歪みようは脳裏に焼き付いてしまって

忘れようにも無理な相談だ。


「君の水は濁った黒色だよ」と。

たったそれだけに畏怖が凝集していた。


つまるところ私は黒色の性格を持つ男なのだろう。

それは成すべくしてなったのか、それとも水道局の意図による操作だろうか、

現在になっても水道局の真相は闇の中でほとんどの人が詳細を知らない。


ただ、それで良い。

人は熱狂し、それを忘れ、繰り返す。

水道局の行いはある意味、ある選択の負の側面を見出してくれたのかも知れない。

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