「えーと、アナタが佐々木小次郎……さん? でいいんだよね?」

【3の巻】


 ま、それはそれとして。


「えーと、アナタが佐々木小十郎……さん? でいいんだよね? 今日の決闘相手の」


 相手が怒ってるってのもあったので、アタシは丁寧にさん付けをして尋ねてみた。

 よく伊織に呆れられるアタシだけど、アタシにだってこれくらいのジョーシキはあるのだよ。

 ふふん、さすがアタシ!


 だっていうのに――、


「小十郎ではない! 佐々木小次郎だ。だいたい我らは初対面ではないだろうが!」


「え? 会ったの初めてっしょ? うげ、まさかナンパ? なんか声はでかいし、めんどくさそうだし、暑苦しくてうっとおしいし、悪いけどあんまし好みのタイプじゃないんだよね……」


「誰がナンパだ! 決闘の日取りを決めるに際して、ご家老様のお屋敷にて一度、顔を合わせているはずだろうが!」


  露骨にイラっとした顔を見せる青年剣士。


 まったくそんなすぐに感情を表に出すだなんて、人間ができてないなぁ。

 子供って年でもないのに、嘆かわしいことだねまったく。

 これだから最近の若者は。

 器が小さい男は論外だよ?


「あーごめーん! アタシどーでもいー人の顔と名前って、覚えられないタイプなんだよね~。あははメンゴメンゴ、てへぺろ(^_-)-☆」


「ぐぬ――っ!」


 可愛くへてぺろったアタシを見て、佐々木小次郎コジローのおでこに青筋が浮かんだのをアタシは見逃さなかった。


 というのもだ。

 佐々木小次郎コジローは煽られるとすぐ切れるタイプって聞ーてたから、出会い頭にちょこっと一発かましてやった、みたいな?


 遅れてきたことも。

 舐めた言い訳したことも(寝坊したのは本当なんだけど)。

 顔も名前も覚えていないと言って挑発したのも(どっちもうろ覚えだったのは事実だけど)。

 

 全部アタシの華麗かれーなる作戦だったのだ!

 どやぁ!( ˘ω˘)


「宮本武蔵! この巌流・佐々木小次郎を愚弄する気か……!」


 おー、効いてる効いてる。

 やっぱ事前情報は大事だねー。


 作戦は大成功!

 勝負は剣を抜く前から始まっているのだよ、みたいな?


「まぁまぁ、そんなのどーでもいいじゃん? さっさとやろーよ決闘。大事なのは名前じゃなくて、アタシとアンタ――宮本武蔵と佐々木小次郎のどっちが強いかってことだけでしょ?」


 言って、アタシはにやっと自信満々で偉そうに。

 佐々木小次郎コジローを馬鹿にして見下すように、いやらしーく笑ってみせた。


 敢えてね、ふふっ。


「……もはや情けは無用である。拙者と拙者の極めし巌流をこうまで虚仮こけにしたこと、閻魔えんま大王の前でとくと後悔するがよい――!」


「はいはいはーい、きちょーなご意見、ありがとごじゃまーす! ……からの、けーれーっ!(キリッ」


 アタシはビシィっと敬礼した。

 でも顔はぷーくすくすと笑っている。


「きっさまぁ……っ!! どこまでもこのワシを馬鹿にしおってからに! 数々の非礼、絶対に許さんぞ……!」


 とまぁそんなわけで?


 アタシ宮本武蔵と怒れる佐々木小次郎コジローによる、無敗剣士同士の頂上決戦決戦が今、幕を開けようとしていた――。



【4の巻】


 アタシと佐々木小次郎コジローは、ガンリュー島(漢字むずい、狭い、何もないの三重苦)の真ん中に移動して、今、互いに向きあっていた。


 佐々木小次郎コジローは抜刀と同時にさやを捨てていて、アタシはまだ二刀とも抜いていない。


 最初は敢えて抜刀せずに無刀&自然体でだらーっと構えるのが二天一流、アタシの流儀なのだ。


 あ、いちおー説明しておくと、アタシの二天一流は二刀流なんだ。

 名前からわかるかもだけど、いちおーね。


 だってほら二刀流ってカッコイイでしょ?

 伊織は厨二病だのなんだのゆーんだけど、このカッコよさが分からない伊織は背伸びしてるけどまだまだおこちゃまだね。


 それに1+1=2なんだから、刀だって1本より2本の方が強いのはカクテーテキに明らか的な?


 おっと話がそれちゃったね。

 とりあえずは目の前の佐々木小次郎コジローとの決闘だよ。


「ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ?」


 今まさに決闘が始まるってところで、


「刀をしまうための大切な鞘を捨てるだなんて、それってどうなの? あ、負けちゃうから、もうしまうための鞘は必要ない的な? 後ろ向きすぎてウケるwwww」


 ってなことを、アタシはとりあえず口から出まかせで煽ってみた。

 まぁ完全に出まかせってわけでもないけどね。


 剣士にとって鞘を捨てるってのは死ってことと同義だから。

 アタシもホーゾー院とか吉岡家とかと戦って結構な死線をくぐってきたんだけど、その経験じょー、そういう良くない予兆を死神の鎌は絶対に見逃さないんだよね。


 アタシなら最後の最後まで、何があっても鞘は捨てないよ。


 刀は武士の命だ。

 その命=刀を守るのが鞘――ってことはつまり、武士の命を守るのが鞘ってことだから。


 まぁ鞘はいざって時に殴るのに便利ってのもあるんだけどね。

 鞘は結構柔らかいから殴るとすぐに壊れちゃうんだけど、それでも1発、2発くらいなら殴れるから。

 何度それでピンチを脱出してきたことか……ごめん、そうでもなかった、3回くらい。


「ピーチクパーチク本当によくしゃべる口よ……!」


 アタシの核心をついた指摘を受けて、佐々木小次郎コジローはさらに怒り心頭って感じで吠えたててくる。


 しめしめ、だいぶ頭の中がフットーしちゃってるね。


 じゃあ、ま。

 そろそろ頃合いかな?


 いっちょ二天一流をカマしてやりますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る