九冊目 『おうち時間』の小説(KAC2021語り残し)

 昨日、23日の夜、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言の発出が決定されました。

 対象は感染状況が悪化する東京、大阪、京都、兵庫の4都府県で、期間は4月25日から5月11日。

 3度目です。


 このタイミングを狙ったわけではありませんが、もう一度『おうち時間』にちなむ『本』『小説』『物語』について考えてみることにしました。

 私自身は、日々、アニメに漫画にゲームに小説と、そこそこ楽しんでいる自覚がありますが、もしかしたら『おうち時間』がもっと楽しくなるようなヒントが何かあるかもしれません。

 

 あらためて『おうち時間』とは何かと考えてみます。


 不要不急の外出を控える。仕事や買い物のやり方を考え直し、人との直接の接触を避ける。そうすることでおのずと自宅にいる時間が増える。

 これが『おうち時間』

 それを『制限』と捉えるか、それとも『変化』とみるか。もたらされた『時間』を耐えるのか、楽しむのか、それで過ごし方が変わるようなきがします。



☆名探偵の『おうち時間』


『シャーロックホームズの回想』他(コナンドイル著)


 いわずとしれた世界一著名な諮問探偵シャーロック・ホームズ。

 彼がベーカー街の自宅に長い間いなくてはならない時は病気でなければ、大抵暇を持て余しています。なんでもできそうな人ですし知っていそうですが、同時に凝り性の様子も見えて興味の続く限り突き詰めていきそうな雰囲気が漂っています。


 作中では色々な趣味を持っているらしいことがうかがえます。

 まずヴァイオリン。ホームズはコンサートへ行ったり、パガニーニの超絶技巧について語ったりします。のみならずストラディバリウスを格安で買ったのを自慢したりします。もちろん部屋の中で演奏することもあり彼自身がヴァイオリンを演奏することが事件解決につながったこともあります……ああ、英国グラナダTV製作のテレビドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』のテーマ『221B ベーカー街』が勝手に頭の中に再生される(笑)


 化学実験は法医学の分野とは関係ないものもやっているらしいですし、そうかと思えば、ものすごくぶ厚い難しい本をみていたりと、いかにもこの人らしい趣味ですが、どれもこれも「一人で時間を潰せる趣味」感が凄いです。結局、彼にとって「犯罪捜査」以上に心惹かれるものはないということなのでしょう。


 まあ、ワトソン先生と会話している時は楽しそうなので、この二人が出会えたのは互いにとって幸せだったのだろうなと思います。一つの事件を解決し、次の依頼人が扉を叩くまでの間、ホームズは適当に時間を潰しワトソン先生が回想録をまとめながら話し相手をしているというのが彼らの『おうち時間』ということになります。


 ヴァイオリン関係のエピソードが気になる方のために。『赤毛連盟』でサラサーテ(ホームズの、というかコナン・ドイルと同時代のスペインの作曲家であり当代屈指の名ヴァイオリスト)のコンサートに行くというエピソードがありました。ストラディバリウスを格安で買ったという自慢話は『ボール箱』。即興演奏は『四つの署名』。ヴァイオリンの趣味が事件解決に役立つのは『マザランの宝石』。


 他にあったら是非教えてください。来年のKACのテーマが『音楽』であった時のために!



☆時代先取り! 充実の『おうち時間』(in塀の中)


『獄中のアルセーヌ・ルパン』他(モーリス・ルブラン著)


 宿敵ガニマール警部の手でついに逮捕されたアルセーヌ・ルパン。

 彼は刑務所に収監され、裁判を待つ身となった……はずだった。しかし大胆不敵なこの人物は囚われの身であるにもかかわらず、悠々自適な囚人暮らしを楽しみ、そして自信満々に脱獄を予告する。


 ホームズを思い出したら、芋づる式で思い浮かんできたのがコレ。ルパンの初期短編集『怪盗紳士』の『逮捕』と、これに続く『獄中』と『脱獄』は日本の少年少女が最初にであうアルセーヌ・ルパンかもしれません。

 そんな楽しい短編の中に描かれている彼の楽しい『おうち時間』。

 警戒厳重脱獄不可能なサンテ刑務所で看守の監視下にありながら、出前で豪華な昼食を食べ上等の葉巻を吸い当たり前のように新聞を読み、あまつさえリモートで仕事をしたりするという(笑)時代先取りにもほどがあります。

 思えば『怪盗対名探偵』のアジトも凝りまくってましたし、『奇岩城』なんて究極の「秘密基地」の話ですもんね。


 じっとしていられないアクティブさの反動か、閉じこもる場所を住みよくしようとする事に関して、情熱というかこだわりと言おうか、注ぎ込むエネルギーが半端ありません。

「文句言いながら我慢する」みたいなところがあるホームズとのこの違いは何なのでしょう? 単に二人のキャラクターの違いなんでしょうか? 

 それともイギリスの人とフランスの人の、いわゆる「国民性の違い」なんでしょうか?


 いえ別に『ヘタリア』の新シリーズが始まったからじゃありませんが。


 でも『家なき娘』(エクトル・マロ著 アニメ化名『ペリーヌ物語』)で、ヒロインが勝手に猟師小屋を魔改造してましたし(お爺さんの所有物件だったので問題ありませんでした)『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ著)も洞窟の中をものすごい勢いで住みよく改造していきますし……あれ? まじで国民性か? すごいなフランスの人!(笑)


 あと『おうち時間』と少し違うかもしれませんが、日本の伝記や小説やマンガだとどこかに「籠もる」のは修行目的なんですよね。涙で絵の練習したり(雪舟等楊)剣の道に目覚めたり(『宮本武蔵』)ボクシングを始めたり(『あしたのジョー』)時と精神の部屋で限界を越えたり(『ドラゴンボール』)長編恋愛小説を書いたり(紫式部)……って、いや紫式部が石山寺に籠って源氏物語を書いたのはレジャー兼女房としての仕事の一環で、むしろ気分転換とか「カンヅメ」のはしりでしょうけれど。

 でも。家にいる時間が増えると「何か有意義なことをしなくてはいけない」と強迫観念に駆られるのはもしかするとこれも「国民性」なのかもしれません(笑)



☆ベットの上の敏腕刑事、歴史上の殺人事件に挑む。


『時の娘』(ジョセフィン・ティ著)


 アラン・グラント警部はスコットランドヤードきっての名刑事だが、犯人を追跡中、不覚にもマンホールに落ちて足を骨折、入院を余儀なくされる(なお犯人は別の人が捕まえた)

 昨日までロンドン中を走り回っていた身が、いまや看護婦の手助けなしにはベットから降りられないとは……と不満たらたらで無聊をかこつ彼の下へ、ガールフレンドがお見舞いがわりに持ってきたのは歴史上の人物の版画だった。

(これはどんな人物だろう?)などと想像するのが意外に楽しくなってきた頃、一枚の肖像画がグラントの興味を引いた。

 薄い唇、がっしりとした顎。裏腹にはるか遠くを眺めやる寂しげな瞳。

 軍人、王侯、あるいは裁判官。非常な責任ある地位にあり、その権威の責務を一身に背負っていた人物だ。そしてあまりに良心的であった人。……そんなイメージを抱くグラント。


 ――いったい、この人物はいかなるひとであるのだろうか?


 好奇心とともに人物画の裏面の名前を確かめるグラント。そこにあったあまりに予想を裏切る『名前』が、彼の思考にささやかな違和感を芽生えさせる。

 グラントは自分の犯罪捜査官としての直観を信じ、イギリス王室の歴史に関わる「迷宮事件」の捜査を開始した……。


 刑事の直観で顔つきから犯罪者を特定する異能の捜査官が、人物画からのインスピレーションを切っ掛けに歴史上の殺人事件に挑むという、歴史ミステリーの古典!  

 もう大好き。表紙違いでうちに四冊ある、はず!


 事故で骨折して入院するのは『おうち時間』じゃないだろうといわれると返す言葉もないのですが(笑)

「やむを得ない事情で外に出られず生活環境ががらりと変わって手持無沙汰。そこで、今まで興味のなかったことをやってみたら、ハマってしまった」

というのは、ある意味私たちが今直面している『おうち時間』の王道展開だと思うのです。

 


☆『おうち時間』がやってきた!


『お気に召すことうけあい』(アイザック・アシモフ著 『ロボットの時代』より)


 ……狙ったわけではないのに、ここまで三つがミステリー。

 いずれ『ミステリー&ホラー』もせねばならぬのに、ペース配分が間違ってます。 

 だからバランスをとるというわけでもないのですが、4000字しばりもなくなったのでもう一つ追加しようと、段ボールの中から一冊持ってきました。

 現代SFを代表する巨匠アイザック・アシモフの大定番『ロボットもの』です。


 目まぐるしく変わり進んでいく日常に、ちょっと取り残され気味の本作主人公。彼女の名前は『クレア・ベルモント』。夫は今や全米に稼働するロボットのトップシェアを誇る大企業USロボット社に勤務する前途有望な幹部。付き合いのある奥様たちもみんなキラキラしているのが、自分自身に自信のないクレアにはちょっと辛い。


 そんなある日、夫の昇進がかかった大切な試作品モニターの仕事がベルモント家に「やってきた」

 ドアの前に立っている「ソレ」を目の当たりにしたクレアは恐怖と驚きに硬直する。

「はじめまして。ミセス・ベルモント」

 貴族的な雰囲気を身にまとう、黒髪に同じく真っ黒な瞳のハンサムな青年。

 深々とした低音の、髪や肌の様に滑らかな声。その、ぞっとするくらいに完璧な美男子『トニイ』こそは、USロボット社が開発中の『TN3』。

 家庭の主婦に代わって家事の一切を代行する家政婦ロボットだったのである。

 夫が出張し家に残されたクレアの不安は天井知らず、そんな彼女をしり目にはじまるトニイの家事無双。鮮やかに仕事を進めて家の中をぴかぴかにして、完璧な家政婦ぶりをみせるトニイ。「これは家電これは家電」みたいなことをいいながらそれを見てるしかないクレア。そんな彼女にトニイは語り掛ける。

 自分が家事を代行できればクレアたち主婦はもっと創造的な活動ができる。そのために自分は生み出されたのだと。そんな『彼』に、クレアは自分にはセンスがないから、たとえ時間が出来ても無理だと悩みを打ち明ける。


 しかしトニイは家の事なら自分が手伝えると励まし、クレアの背中を推す。家の中はトニイが、屋外に出れないトニイに代わって資料集めや買い物はクレアが役割分担。

 こうして「二人」の「ベルモント家劇的リフォーム計画」が動き出したのだった……


 ……だれか。

 だれか、漫画化してください。

 もし誰か漫画化してたら教えてください。

 むしろ実写ドラマ化待ったなし!


 珍しくアシモフ先生の下へ若い女性からのファンレターがいっぱい届いたというこの話。

 非常に前向きな『おうち時間』。変化していくベルモント家とクレア自身が楽しい傑作です。石束も大好きな短編。

 あと、ウチに来てくれるなら女性型が……あれ? それはまほろさんでは?

 おお!もうアニメ化されてたのか(笑)まほろさん多分三原則は入ってないけど。

 あと2021年6月に映画(山﨑賢人主演)が公開予定の『夏への扉』(ロバート・A. ハインライン著)が、「文化女中器」――ハイヤード・ガールで女性型ですね。

 どうなるんだろう? ハイヤード・ガール、映画にでてくるのかな?



と今回はこんなところで。

少しは『おうち時間』がテーマのエッセイになったでしょうか。


次回は【KAC20212『走る』】の語り残しです。

もちろん「ウマ娘」関連で最近読んだ本です(笑)

 


本日も、ご覧いただきありがとうございました。



 

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