三冊目 『十二国記』

 

 捜索対象: 小松左京著『骨』……だったのですが。


 6日は翌日の仕事の準備、7日8日9日と溜まっていた仕事をやっての日曜日。

 本の整理は、空き時間にぼちぼち進めていたものの、やっと、まとまった時間をとれた発掘作業、実質三日目。


 講談社X文庫の真っ白いカバーがまとめて出てきて、ずっと棚上げにしてきた問題に直面することになりました。


 小野不由美著 『十二国記』全11巻。 (当家にお迎えした時点で)


「ああ。そろそろ、覚悟決めて読み直さんといかんかなあ」


 去年(2019年10月11月)に出た最新刊。『白銀の墟 玄の月』を石束は、まだ読んで(買って)いないのです。


 18年ぶりの新作!と書店の一番目立つ所に平積みされ続けているこのシリーズ。

 それはめでたいことにはちがいありません。ずっと気にかかっていたあんなことやこんなこともわかってお話が進むのだろうなーとか思うと、楽しみでしかたありません。

 ましてや、本編『黄昏の岸 暁の天』があんなところで終わってるとあっては。


 しかし――

 とはいえ――とはいえ、です。18年かかったんですよ。このお話が動き出すまで。

 全四巻で、ぜったいにお値段以上の情報量と読み応えがあるであろうコレではありますが、いずれは読み終わるのです。


 読み終わってしまったら、どうすればいいのでしょうか?

 また十年くらい待つことになるのではありませんか……


 神仙ならぬ身としては、思わざるを得ません。


「もう二、三年くらい経ってからで、いっか……」 

 ―― 待つ時間が二年か三年短くなるし。


と。


 ◇◆◇


  小野不由美さんの長編小説、『十二国記』。

 第一作の発表は 『月の影 影の海』(1992年)――ですが、このあたりは1991年の『魔性の子』をどう位置付けるかでスタートが変わってくるかと思います。


 現代日本に暮らす普通の女子高生が、『蝕』と呼ばれる現象で隣り合う異世界に飛ばされる。異なる社会、異なる常識、道徳。半獣人、神仙に妖魔。現代社会とあらゆる意味で異なる『文化』は容赦なく彼女を虐げ、命すら奪おうとする。

 ただただ翻弄される少女は、もがき苦しむ中で信頼できる『友人』と出会い、恐ろしいばかりだった『世界』にも、自分と同じように苦しみや悲しみ、喜びや楽しさを知る人間たちがいることを知って、『世界』と向き合いはじめる。困難に挑み賢者に学びながら、彼女は王として一人の人間として、自分自身の立脚点を見つけて成長していく。

 中国風、の世界観ではあるものの、原典となる時代や国があるわけでもなく、小野不由美さんが『魔性の子』を書いた時にバックボーンとして設定したもの。その異世界には為政者が『道』を違えれば(道義に反する非道な行いをすれば)死につながるというルールがある一方で、そんな超常的な天罰っぽいルールによっても国王ら支配者たちの悪政や暴力、権力争いや抗争は防ぎえず、不幸になる人々はいる。誰かを救おう助けようとする時には、逆にそのルールが邪魔をすることもある。人はそんな世界を許容しつつ、理不尽を嘆きながら、それでも生きていかねばならない。


 そんな理不尽な『異世界の理』そのものとの格闘こそが、この物語の主軸です。

 

 そして、そんな辛く困難に満ちた重厚な物語であり、同時に、迷い苦しみ障害を乗り越えるたびに、主人公、中嶋陽子の周りに彼女を助ける人間関係が生まれて、友情の温かさと、やさしさにふれる幸せに共感できる物語でもあります。


 特に最初に陽子を助ける半獣人の青年、楽俊(らくしゅん)が本当にいい登場人物(キャラクター)で。かつてハマりまくっていた友人(女性)が

「海洋堂で楽俊の等身大フィギュアかぬいぐるみ作ってくれたら、ローン組んでも買うのに! もふもふに作って抱き着けるようにしてほしい!」

とか叫んでいたのを今でも覚えています。

 NHKでアニメ化されまして、これが今見ても色あせない傑作。久川綾さん演じる陽子は回を追うごとに逞しく貫禄が出て、シリーズ最後あたりの王様っぷりは本当にすごかった……


 長いお話故にどの一冊が一番と決めるのは難しいですがアニメのクライマックスにもなった『風の万里 黎明の空』が自分的には一番です。いやあれはそれまでの積み上げがあってこそで、単体としては『図南の翼』の傍若無人なまでの前向きさも捨てがたいし、『黄昏の岸 暁の天』での、すっかり頼もしくなった『チーム金波宮』の活躍もいいし……ああ、決められない(笑)


 エピソードで言えば、やはり『初勅』は外せません。読み返すたびに印象が変わるシーンで、一番最初は『うんうん、カッコいい! よく言ってくれた!』と共感し、次に読むと『郷に入れば、じゃないけど、官吏の信頼を得なければならない時、こんなことを言っても……ちょっと青臭いんじゃね?』とナナメに構えて読み(笑)、ずっと後になって『高校生の主張じゃなくて、現代日本の価値観でもなくて、異世界で戦い続けてきた中で、陽子自身が獲得した信念だもんな……』と、とっとこ楽俊視点で納得し。


 気に入ったところをつらつらと書いてみて、改めてこのお話を自分は好きなのだなあと再認識しました。


『白銀の墟 玄の月』をいまいち読む気になれないのは、

「これが十二国記のラストエピソードなのかもしれない」

とか思ってしまったのも、あるかもしれません。


 読みたいし、読まねばとおもいますが、読んだら終わりそうなあたりが複雑です。


 ……どうしようかなあ。でもなあ、並べると背表紙が違いすぎるし、だからって新潮版に買い替えるのもなあ。

 いや、場所がなくて困ってるのに、この上増やしてどうする?


 迷ってないで、そろそろ本の整理を進めないと……おや?


 ――あ。漫画版の『ゴーストハント』がこんなところに。



(とりあえず 完)

 

 

 


 

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