のら学園ラブコメはお好きですか?(ラブコメ集)
ジュオミシキ
のら学園ラブコメはお好きですか?
第一話 グイグイ来るクラスメイトはお好きですか?
「ねぇ、あなた一人なの?私と友達にならない?」
よく晴れた青空の下。屋上で一人、昼飯用のパンを食べていた男に、まるで雨の日の寒さに震える野良犬に話しかけるかのように手を差し出した女がいた。
※※※
「いいえ、結構です」
男、ここ
これはまったくの余談だが、平平高校は通称‘ヘイコー’と呼ばれており、それは‘閉校’という言葉を連想させるなんとも縁起の悪い呼ばれ方だったりする。
「なんで敬語?同じクラスでしょ?」
女、同じく平平高校に通う2年生、名を
エイジは面倒な事に巻き込まれたとここで判断し、さっさと切り上げて教室に戻ろうとしたが、ふとさっきの言葉に引っ掛かりを覚え聞き直した。
「同じクラス?」
「ちょっと待って、まさかクラスの人の顔覚えてない?」
もちろん覚えていなかった。そんなことよりも、同じクラスだと発覚したことによって、教室に戻ってもこの状況から解放はされないと分かり、少なからずショックを受けているエイジ。仕方がないと腹をくくり、ここで話を終わらせようとした。
「ごめんごめん、人の顔覚えるの苦手で。ええとそれで、またごめん。君とは友達になれない」
こういう時はきっぱり断った方が後々面倒ごとに巻き込まれにくいと、かなりバッサリ切ったエイジ。曖昧な返事をすると、グイグイ押し切られてしまってろくな事にならない。決して口下手だからという理由ではない、と少なくとも本人は思っている。
「そう……理由は?」
エイジは思った。なんと面倒な質問だろう、と。のんびり昼飯を食べている時に、なんの前触れもなく、いきなり友達になろうなどとと言われたのを断って理由もクソもあるか。しかし、これをそのまま口に出すとかなりの確率で相手を怒らせてしまうので、なるべくオブラートで包んで説明した。
「いや、いきなりそんなこと言われても、迷惑」
この男、これでオブラートに包めていると思っているのである。明らかに迷惑感が滲み出ている。むしろ迷惑と言葉に出てしまっている。
「そっか、たしかにいきなりすぎたね。じゃあまた来るね?」
ポジティブ。ミチはポジティブモンスターだった。迷惑と言われたのはあくまで突然の申し出に困惑しているためであり、決してその申し出自体が迷惑なのでないというころなのだ。少し時間をくれ、考えさせてくれ、彼女にはきっとそういう意味で伝わったのだろう。
この反応にエイジもかなり動揺した。‘また来る’と言うのである。つまりこの話はここで打ちきれなかったのだと、自らの失敗をひしひしと感じ、ガックリと肩を落とす。
「じゃあ、またね?」
言葉を返すよりもはやく、ついにミチは屋上を出て行ってしまった。
「あ………」
突如として自らに降りかかった運命を受け入れ、エイジのとった行動は……。
(今日の晩飯何にしようかな……)
現実逃避であった。
※※※
学校の帰りにスーパーに寄り、夕飯の材料を買うエイジ。
夕飯は当番制で、今日はエイジが当番の日だった。
献立は毎回変えないと妹に怒られてしまうのでなるべく手を抜いてバリエーションを増やそうと頑張っている。しかし最近はもっぱらカレーか生姜焼きくらいが関の山である。揚げ物は避けたいエイジ。この前自分がカレーを作った日の後、妹がこれ見よがしに大量の生姜焼きを作ったため、そろそろ他のにしようかと悩んでいると……
「あ」
後ろの方から聞こえてきた‘あ’の声に何か嫌な予感がして、そそくさと買い物を済ませようとする、が。
「エイジくん、奇遇だね?」
回り込まれて真正面から言葉を受けてしまった。逃げようがない。奇遇ではなく杞憂であって欲しかった。なるべく顔に迷惑感を出さないように気をつけて、言葉を選ぶ。
「奇遇だね、それじゃあこれで……」
早く帰りたい感が満載だった。
「ちょっと、そんな急ぐことないでしょ?一緒に買い物しよ?」
グイグイ来る。グイグイ来る。もはや迷惑を通り越して恐怖すら感じるエイジ。
「ごめん、急いでるから」
心の中で今日の夕飯がお茶漬けになることを妹に謝りながらスーパーを出ようとする。
「ホントに急いでる?」
「急いでる」
「じゃあさっき冷凍餃子を手に取りながら『餃子かぁ……』って言ってたのは?晩ご飯の献立決めてたんじゃないの?」
つけてやがったのか?このアマァ……。とまではいかなくとも、恐怖を通り越して軽い殺意まで湧いてきそうになるエイジ。
エイジは、はぁ……、と心の中でため息をつき、この不毛なやりとりをとっとと終わらせるべく、大人しく買い物を続けることに決めた。妹がガッツポーズしてるが見えた気がした。
一人ずつ買い物かごを持つのも邪魔なので、二人分のかごを一つのカートに乗せることにした二人。
「こうして一緒に買い物してるとなんだか同棲してるみたいだね?」
「噂されると恥ずかしいからもう帰るわ」
「はいはい、そういうのはいいから……晩ご飯何にするー?」
本当に誰かに見られたらそういうことなんじゃないかと噂されるようなこと言うミチ。
「カレーと生姜焼き以外にする」
「何それ?あ、魚ー?」
この時間は一体なんなのだろうと思うエイジ。そんなエイジをよそに魚売り場ではしゃぐミチ。
「魚か……もう魚にしようか」
「え?捌けるの?アジ?フライ?」
アジもフライもしないと言わんばかりに鮭の切り身を手に取るエイジ。
「えー、鮭?魚捌かないの?」
「面倒くさい」
「できるんだ……??」
※※※
買い物も終えて後は家に帰るだけ。
「じゃあ、これで」
やっと解放されると思ってスーパーを出てすぐに別れを告げるエイジ。
「?、もう暗いよ?」
辺りを見回しながら何か言うミチ。
「そうだな……?」
同意するようにエイジも辺りを見回しながら言う。
「うん、それでそれで?」
「さようなら?」
「なんでよ!違うでしょ?」
えぇー何ー?こわー、と正直に思うエイジ。
「暗い道を女の子が一人で歩くと危ないよ?男子が一緒についてた方がいいんじゃない?」
あぁ、つまり送っていけということか、と納得する。
「わかった。家まで送るよ」
「やけに素直じゃない?」
当たり前だ、もしこれで君に何かあったら絶対に俺に何か面倒なことが起こる。と思うもそれは口には出さないエイジ。
「じゃあ、行こう?」
あの時のように手を差し出すミチに……
「何?」
困惑するエイジ。
「手、繋いでたほうが安全じゃない?」
「……噂されると恥ずかしいからいやだ」
割とガチで断った。
※※※
幸いにも家の方面が同じだったため、遠回りはしなくて済むと一安心のエイジ。
「エイジくんは家どの辺?」
「個人情報は簡単に開示できないんだ」
「じゃあ私の家も教えてあげないよ?」
「ここまででいいかな、じゃあ気をつけてね」
「うそうそ、ちゃんと家まで送ってね?」
なんとも無意義な会話だったのだろうか。というかなぜ自分は初対面の人(クラスメイトなので初対面ではない)にここまで振り回されないといけないのだろうかと、せめて彼女の家が階段しかない高層ビルの最上階ではないことを切に祈りつつ歩くエイジだった。
「あ、着いたよ?ここが私の家」
そう言って一軒の家を指すミチ。
普通の二階建ての家だ。高層ビルじゃなくて良かった。これでやっと家に帰れる、と実は自分の家がかなり前に通り過ぎていたことを黙っているエイジは安堵した。
「上がってく?」
「冗談を」
「だよね?」
だったら最初から聞きなさんな、と思うエイジ。
「それじゃあ、また明日?」
「あぁ、また明日」
と、ここでエイジは気がついた。しまった、つい面倒でテキトーに返事をしていたら流されて、いつに間にか明日も会う感じになってしまった、と。
「うん!また明日!」
なんとも嬉しそうなミチ。
その嬉しさを半分でもいいから分けてもらいたいと思わずにはいられないエイジであった。
こうしてやっとのことで家に帰り着いたエイジに、帰るのが遅いと妹から怒られて次の日の夕飯もエイジの当番となる仕打ちが待っているのはまた別のお話。
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