第四十夜 勧誘

「ん~、一人で冒険者ギルドに来ちゃったし、ハクヤ達がいない状態の一人でダンジョンに潜ってもいいのかな? 一人でもできる簡単なクエストを探した方が良いかな?」


 場所は移って冒険者ギルド前、ミュエルからの助言で一人レベルアップを作戦を企ていたエレンであったが、どうしたらいいものかと悩んでいた。


 それはこれまでの行動は何だかんだでハクヤが提案していたことが多かったのだ。

 ハクヤが「あれはどうだ、これはどうだ」と言ってきて、基本自分にそこまで強い意志がなければ従うようにしているが、冒険者など勝手がわからないものには従いっぱなしだった。


 ハクヤがクエストを受注して何かやっているのは知っている。

 そして、それらはどうしようもなく自分のために行動していると。

 しかし、それで考えてみれば自分は外に出ても箱入り娘ではないだろうか。

 とはいえ、ダンジョンは時折危険があったので、一人で挑むのはなんか怖い。


「どうしたらいいと思う?」


「キューイ」


「『やりたいようにしたら』と言われても、そのやりたいことがあんまり見つからないんだよね。

 やりたいことはわかってるけど、自分の実力に悲観的なのかあまりいけそうってクエストがない」


「キュイキューイ」


「そうだね、とりあえずクエストを見てから判断しようかな」


 エレンは肩で羽を休めているグレンの助言を聞きながら、冒険者ギルドに入る。

 相変わらずの大盛況だ。日夜を問わず騒いだ声が聞こえてくるが、昼間なんかはさらに騒がしい。

 とはいえ、このような空気はもう慣れた。

 きっとこういう空気で一緒にバカ騒ぎ出来るぐらいになったらもっといいのだろうけど、さすがにそれはハードルが高い。


 席を囲んで話し合っている冒険者の間を通り抜け、クエストボードにやってくるとコルクボードでピンに刺してあるクエストを眺めた。


 基本どれも採取系だ。ハクヤから余りやすいと聞いていたけど本当であった。

 その理由は大体予想がつく。レベルアップが出来ないからだ。

 この世界には本人自身のレベルアップはないが、魔法自体の使用に応じたレベルアップはある。


 それは冒険者カードに記されていて、さらに魔法がレベルアップするとその魔法から派生魔法やオリジナル魔法が使えたりするようになる。


 冒険者の大半はその魔法のレベルアップを求めているのだ。

 大物狩りをして称号を得ようとするもの、一つの獲物だけの狩りを極めようとするもの、いざという時のために魔法を鍛えておこうとする者。

 レベルアップといっても様々な理由がある。


 そして、そういう者たちは必然的に魔法の使用頻度が高くなる討伐系クエストを選びやすくなり、ほとんど魔法を使わない採取系クエストは選ばれなくなる。


 結果的に採取系クエストだけあぶれるのだ。

 実際エレンもその口なので他の冒険者を批判することは出来ない。


 エレンは仕方なく採集クエストを選ぼうと手を伸ばした時、後ろの人から肩を叩かれた。


「ねぇねぇ、そこお嬢ちゃん。もしかしておひとり様?」


 声をかけてきたのは金髪のいかにもチャラそうな冒険者であった。

 年齢は1つか2つ年上に感じ、着ている装備は結構いい素材のプレートメイルに見えた。

 そのチャラそうな男の後ろにも数人青髪と赤髪の男がいるが、エレンは嫌そうな顔をせず返答した。


「そうですね。今は一人ですね。ところで、何か用ですか?」


「俺、カルロスって言うんだけどさ。いやさあ、お嬢ちゃんクエストを必死に眺めてたでしょ。

 でも、全然手に取らなかったからさ、もしかして討伐系のクエストを探してるんじゃないかと思ってね。

 あ、ところでお嬢ちゃんの名前は?」


「私はエレンです」


「エレンちゃんかー、いい名前だね。なんか精霊にいそうな名前ですっごく清楚って感じだよ。

 それでさ、もしレベルアップ目的でクエスト探してるなら、俺達のクエストに来ない?」


「どんなクエストかわかりませんけど、もし高ランクだとすればただの足手まといにしかならないと思いますけど......」


「全然関係ないよ。俺達のいくクエストはそこまでランク高くないし、仮にエレンちゃんが苦戦するようなことがあっても俺達が守るからさ。

 それに光魔法を使えるのはとっても優秀なんだよね~。回復系って光属性にしかないし」


「......どうして私の魔法属性を知ってるんですか?」


 エレンは思わず訝し気にカルロスを見つめる。

 その明らかに怪しまれている目線にもカルロスはひょうひょうと答えた。


「それは俺がそういう魔法を持っているからさ。

 俺、こう見えても英雄志望なんだよね。だから、その魔法で優秀な仲間を集めて、やがては高難易度のダンジョンやクエストを受けたいってわけよ。

 なんなら、俺が魔王を倒しちゃって勇者になっちゃったりしてな」


「その仲間として私を?」


「そうそう。やっぱりどのパーティにも回復が出来る仲間は必要だしさ、それにアンデッドやゴースト系の魔物には光魔法しかほとんど通用しないから、ぶっちゃけ居て欲しいんだよね。

 あ、もし同性がいないことで困っているようなら、安心して。

 ここじゃないけど、別の場所で俺達の帰りを待ってるはずだから」


「少し考えさせてくれませんか?」


「あ、考えてくれる? マジか、嬉しい~。でもさ、やっぱり一人で考えるとあれだからさ、一度俺達のパーティに顔合わせに行こうぜ。

 そして、話を聞けばしっかりとした考えが浮かぶからさ。

 それでダメなら仕方ないと俺達も思うし」


「う~ん、それじゃあ―――――」


「ちょっと、こんな所で何油売ってんのよー!」


「探しましたよ」


 エレンがカルロスに返答しようとした時、同年代ぐらいの茶髪に大きめなリボンのポニーテールを少女とおっとりした雰囲気のボブカットの少女が現れた。


 そのポニーテールの少女とボブカットの少女はエレンの両腕に絡みつくとそのまま移動させようとする。


 すると、遅れて頭に鉢巻をつけた少年と大柄な少年がエレンとカルロスの間に割って入る。


「あ、すみません。俺の仲間が。なにか粗相したなら謝ります」


「世間知らずの子でしてすみませんっす。失礼しますっす」


 少年二人は丁寧に頭を下げて謝っているうちにまるで窮地から救出されるように二人の少女にどこかへ連れて行かれるエレン。


 その二人の少年にカルロスは「あ、全然問題ないよ~」と言いながらも、後ろの二人は明らかに不機嫌そうな顔をしている。


 そして、二人の少年が少女達の後を追っていくとカルロスは目つきを細めてその後ろ姿をじっくりと眺めた。


*****


 一方、カルロス達からだいぶ離れた席に座らされたエレンはその両脇を二人の少女に挟まれ、正面に二人の正面が座った。


 そして、ポニーテールの少女が第一声に言った言葉はこうであった。


「ダメよ、女の子が一人あんなところにいちゃ。危うく酷い目に合うところだったよ!?」


「え、ご、ごめんなさい......?」


 突然怒られた。咄嗟に謝りながらもエレンは思わずキョトンとする。

 すると、ポニーテールの少女はため息を吐きながらまずは自己紹介を始めた。


「私はベルネ。そして、あなたの隣にいるのがメニカ」


「よろしくお願いします」


「んで、ちっちゃいのがウィルで―――――」


「ちっちゃいって言うな!」


「反対にでっかいのがボートン」


「よろしくっす」


「で、あなたは?」


「私はエレンです」


 エレンはペコリと頭を下げる。その動きに合わせるように4人も頭を下げた。

 すると、ベルネは早速エレンに言及した。


「んじゃ、同年代っぽいからこのままタメ口で行かせてもらうけど、あんなチャラ男いかにもやばそうでしょ? そんな相手にまともに会話しちゃダメ!」


「え、でも、人を見かけで判断しちゃダメって思うですけど......」


「私達に丁寧語はいりませんよ。私は癖ですけど。

 確かに、エレンさんの言う通りかと思いますが、全くその通りに動いてしまうと今の場合は一生癒えない傷を負うところでしたよ?」


「いわゆる強姦ってやつだ。最後の方は割に強引にギルドからお前を出させようとしていたからな。

 人目があるから手を引っ張る行動は出来ないとはいえ、あのままついていったら間違いなく酷い目にあっていたね」


「それにあの男たちからはあまりいい噂を聞かないっす。

 若い女の子を誘ってはどこかへ連れて行き、次の日には別の女の子を誘ってる。

 そして、誘われた女の子はその日以降ギルドに顔を出さなくなったっていう」


「でも、証拠が不十分だからギルド側が出来るのは注意だけ。そして、私達は関わらないだけ」


「どうして注意しかしないの?」


「しないというかできないのですよ。

 ギルド側の手段として冒険者カードの剥奪とあって、それは前科持ちさせると等しい行為なのですが、証拠不十分でやると逆に訴えられて負けるのはギルド側なんです」


「んで、無理にやって負ければ怪しいことをやってるあいつらに多額の賠償金が流れ込む。

 そうさせないためにギルドは注意だけで事実上の黙認。あいつらは好き勝手にやってるってわけだ」


「誰かが止めようと思わなかったの?」


「話には聞くとあったらしいわよ。といっても、あいつらがこうして今さっきエレンを狙ったように動いている時点で結果は明白だと思うけどね」


「失敗してしまった.....ということだね?」


「ついでに言えばその正義感溢れる冒険者も翌日には姿を消してしまったっす。

 どんな目にあったかはわからないですが、あまりその先は想像したくないっすね。

 というわけで、一番の解決方法はそのまま関わらないということっすね」


「でも、私のせいで完全に目をつけられる結果になってしまったよね......ごめんなさい」


「気にしなくていいわよ。私達がさすがに見逃せなくて動いただけ。自己責任よ」


 そういうベルネであったが、エレンの顔はなかなか浮かない様子であった。

 すると、ベルネはあることを閃いたように提案する。


「ちょっと、あいつらの手口を真似るようで嫌なんだけど、私達今ダンジョン攻略中なのよね。

 それでエレンはレベルアップしたいって言ってたし、良かったら少しの間私達のパーティに加わってくんない?」

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