世界の敵は○さなきゃだよね!

@satorusord

第1話 死のう!


「これにてHRを終わります。では皆さん気を付けて帰ってください。さようなら」

「「「さようならー!」」」


 俺は、今しがた帰りの挨拶を先生に返した一人である「志山こころやま高校」の二年。名は「人吉 一樹ひとよし かずき」という。

 特に特徴の無いどこにでも居るような男子高校生だが、俺の事を一言で表すとすれば


「おーい!お人吉ー!帰るでー!」

「早く来ないとお前のテストの点数叫ぶぞー!」

「それ多分突然テストの点数叫ぶ方が恥ずかしいやつ!今行くからちょっと待ってくれー!」


 今名字をかけて呼ばれたように、自分で言うのも何だが俺は「お人好し」だ。

 なるべく人の為になるような行動を意識して生活している。


 例えば、道端に落ちてるゴミを拾ったり、電車やバスに乗る時にお年寄りや妊婦に席を譲ったり、果てには自殺しようとした人を止めた事もある。

 後から考えれば、相手の事もよく知らないのに自殺を止めた事は無責任だったなとも思えるが。


「おまたせ。さあ帰ろっか」

「おう。ところで今日の夜もあれやるのか?」

「勿論!お前らも今日はキルしてくれよ!」

「分かった!敵をキルできそうに無い時は一樹をキルさせて貰うわ!」

「それはもう勘弁してくれ…昨日はお前のせいで三回も無駄死にしたぞ…」


 お人好しと呼ばれる俺ではあるが、俺の趣味はFPS――簡単に言えば銃を使用して争うゲームだ。

 状況に応じ、あらゆる銃を操って敵を撃ち抜く――特にヘッドショットを決めた時の爽快感は何事にも代えがたいものだ。


 最近は、夕方から深夜にかけて友人二人とFPS三昧の楽しい毎日を過ごしている。

 FPS三昧に付き合ってくれる友人は、今から共に帰路に着こうとしている二人だ。

 関西弁で話す、基本的にボケ役の友人が「中野 楓稀なかの ふうき

 普段はクールだが、ノリが良く最終的には一番はっちゃける友人が「片桐 雪登かたぎり ゆきと

 二人とも、高校から知り合ったかけがえのない友人だ。


「そういや『フィールアウト』まであと少しやな~。ごっつ楽しみやわ~。」

「楽しみって言ってもどうせお前の目的は『エネミー』だろ?」

「当たり前や!逆にエネミーを見ずに何を見に行くっちゅうねん!」


 三人で帰路を歩いている中、楓稀と雪登が何やら訳の分からない事を話始めた。

 突然だが俺には致命的な欠陥がある。


「あの…、さっきから話してるエネミーって何なんすか?」

「はああ?お前が世間知らずな事は知っとるが、エネミーを知らないとか本当にこの世界の人間かいな?異世界から来たんとちゃうか?」

「俺は生まれも育ちも地球の!東アジアの!日本の!福岡県です!お前らだってそうだろ!」

「いや…、俺は東京生まれだが」

「俺は大阪やでー!」

「そうでした!」

 

 そう、俺はかなりの世間知らずだ。

 テレビや新聞など一切見ないせいで、時折周りの人が未知の言語を話しているように聞こえる。

 別にテレビとか新聞とか見なくても生きていけるし!


「この際だから教えたるわ!エネミーっていうのは、人で有りながら人ならざる力を持つ美少女達の事や!」

「ざっくりした説明だな」

「ふーん。興味ないね」

「美少女に興味ないって事はお前あれか?ホモってやつか?」

「やめなよ。人それぞれの性癖があるんだから言ってやるな。でも一樹は今後俺の後ろには立たないでくれ」

「どこぞのスナイパーみたいな事言うな…。てか俺はホモじゃねぇよ!」


 世間知らずが災いして、あらぬ誤解を受けるはめに。

 …いやこれは別に世間知らずが悪い訳じゃないよな。

 

「そんな特別な人達ってのはどうせあれだろ?美少女だとしても、アイドルみたいに近いようで遠い天の上の人達なんだろ?」

「その疑問も近いようで遠いな。実は俺達が住むこの街に、エネミー達が通う学校があるんだぞ」

「え?マジ?」

「せや!そして俺達はちょうど今その学校に向かってる所なんや!」

「あ、だから今見知らぬ森の中を歩いているのか」


 いつもの帰り道を歩いていたつもりが、楓稀に付いていっている内に未知の森へと足を踏みしめていた。

 見渡す限りの木、木、木。

 本当にこんな場所に学校があるのか?それともこの森を抜けていくつもりなのか?

 

「信じられんって顔をしてんな。まあ付いてくれば分かるって!」

「雪登はその学校に行ったことあるの?」

「いや。俺もこの森に学校がある事は知ってたが、実際に行くのは初めてだな」

「何してんだー!早くこーい!」


 何が彼を突き動かしているのか、楓稀は俺達を置いてどんどん奥へと進んでいく。

 この森の中だと下手したら迷いそうだな…と思っていたが、すぐにその考えは打ち破られる事となる。


「ところで、何でそのエネミーとやらが通う学校に向かってるんだ?」

「そんなの決まってるやろ!美少女達を生で拝みたいからや!」

「清々しいまでの下心だな…」

 

 そんな他愛ない会話をしながら進んでいると、急に大きな影に覆われる。

 いや正確には今までも木々の影に覆われていた。だが今俺達を覆ったのは、不規則な形をした木々の影ではなく、人の手によって作られたであろう物による、整った四角形の影。

 しかし前方を見てもまだ建物のような物は見えず、ただ木々が道を塞いでいるのみだ。


「お、見えてきたぞ。」

「え?まだ何も見えないぞ?もしかして楓稀には木が美少女に見えたりしてる?」

「アホか!俺が見たいのは人間の美少女や!…いや美少女といえば人間一択やろが!そうやなくて上を見てみい」

「上?」

 

 楓稀の言葉に従って顔を見上げる。

 そこには俺達が通う学校よりも遥かに巨大な――都会に建つ高層ビルのような高さの建物が、周りの木々を太陽から遮っていた。


「で…でっか!」

「せやろ?俺も最初見たときは驚いたもんや。あれがエネミー達が通う学校、『アドバーサリー学園』や」

「東京生まれの俺から見てもヤバい高さだな…。でも建物が見えてきたってことはそろそろ入り口に着くか?」

「いや?入り口から入ろうとしたら警備員に捕まるから裏口に向かってるで?」

「だから俺達はこんな整備されてない道を歩いてたのか…」


 そのまま屋根が見えた方向に進んでいくと、森に不相応な人工物であるレンガ造りの壁へと辿り着く。

 その壁は巨大な建物に反してそれほど高くないが、人一人が飛び越えれそうな高さという訳でも無い。

 

「確かこっちの方に…あった!」

「それ…脚立か?いつの間に持ってきたんだ」

「ふっふっふ。実は、昨日の帰りにもここに来て事前に仕込んでいたんや!全ては今日!美少女達のご尊顔を拝むために!」

「変態の鑑だな…」


 楓稀が用意していた脚立を使って、楓稀、雪登、そして俺と順番に壁の上へと登っていく。

 そして三人とも登り切り、まず見えたのは運動場らしき舗装された平面な土地。

 その運動場は建物に比例するように広大で、細目で見ても逆側の壁まで目が行き届かない。


「広いな…。こんだけ広けりゃ昨日やったバトルロワイワルがやれそうじゃないか?」

「いやこんな平面で撃ち合ってもつまらんわ!さっきまで歩いてた森の方がまだ戦略が立てれるわ!」

「確かにな。でもこれ登ってどうするんだ?不法侵入の前科作りに行くのか?」

「心配無用や!俺達はただ壁の上から見てるだけ。決して不法侵入やない」

「壁の上立ってるだけの三人組とかシュールな不審者だな」

「すぐに帰るから大丈夫やて。さーて美少女さんは…」

「待て!何か来るぞ!」


 楓稀が運動場から校舎の窓へと目を移したその時、何かが凄まじいスピードで俺達が立っている壁へと向かってくる。

 そして、その何かそのままの勢いで壁へと衝突し、ドォン!と轟音を鳴らしながら壁が揺れ動く。


「うわっ!」

「やべっ」

「なああああ!?落ちるううううう!?」


 揺れる足場に耐えきれず、三人は重力に従い運動場側へと落下する。

 突然の出来事だったが、幸いにも壁はあまり高くなかったので、大きな怪我無く地に足をつける事ができた。


「あいたた…。皆大丈夫か?」

「俺は大丈夫だ」

「いや~これは骨が折れたなー。一樹君、慰謝料頼むで」

「それは自業自得の自己負担でお願いします」

「しっ。誰かそこにいるぞ」


 冗談を言う元気を見て二人の無事を確認するも、近くにいるもう一人は――恐らく壁に衝突した何かの正体であろう、俺達と変わらなそうな歳に見える少女は膝をつき、苦悶の表情を浮かべていた。


「えっ!?なんでここに男の人達が!?」


 その少女は一樹達を見つけると、苦悶の表情から豆鉄砲を撃たれた鳩のような顔へと表情を変える。


 快晴の空のような美しい青の髪の少女だ。その髪は一つに束ねられ、まるで滝のように少女の後頭部から下りている。

 線の細い体に整った顔立ち…文句なしの美少女だ。

 しかしその少女の格好は学校にも運動場にもそぐわない――曇りの無い純白な着物に、髪と同じ色の帯を巻いている。

 こんな砂場で着物を着ている時点でおかしいが、一番おかしな箇所は格好では無く…少女の両手に握られている物。

 それは古くから日本に伝わる武器――刀だ。

 刀と言っても人間を一刀両断できるような大きさでは無く、通常の刀より小さな小太刀のようだが。


「あんたは…もしかして『愛ノ坂 孤月えのさか こげつ』さん!?」

「知ってるのか?」

「知ってるも何も!エネミーの一人である愛ノ坂さんや!噂に違わぬ美少女やないか!来たかいがあったわ!握手してください!」

 

 興奮する楓稀を見て孤月は目を丸くするも、すぐに切迫した表情に変わり叫ぶ。


「誰だか知らないけどすぐに逃げて!ここは危ないわ!」

「え?」

 

 孤月が警告を発しながら正面を向く。

 俺達もそれに釣られ孤月が飛ばされた方向を見ると、そこには淡いピンク色のフリフリな服を着た、俺達より幾つか幼い少女が浮いて――否、浮いている大きな箒に少女が座り込んでいる。


「な、なんだあれ!?」

「あれがエネミーの力や!浮いてるのは初めて見たが!」

「初めて見たのにそんなドヤ顔で説明するのか…」


 孤月とは違い、浮いている箒に乗っている少女は俺達など眼中に無いかのように、ただ一点――孤月だけを見つめている。

 

「ざんねーん♪今日はー桃の勝ちー♪」

 

 その少女は満面の笑みを浮かべながら乗っている箒を持ち、落下していく事に構わず箒の穂先を孤月に向ける。

 すると穂先に桃色の光が貯まっていき、同時に空間が揺れる程のパワーをその箒が溜め込んでいく。


「いっけぇー!『スターブレイカー』!!」


 箒から太い光の線が――桃色のレーザーが、孤月を目掛け放たれる。

 そのレーザーは凄まじいパワーと熱量を以て、宙に放たれたにも関わらず地面を抉り取りながら目的地へと突き進んでいく。


「くっ…そう…!」


 孤月はレーザーを避ける為に立ち上がろうと膝を伸ばす。しかし、壁に衝突したのが影響しているのか、その立ち方はフラフラとしていて、とてもレーザーを避ける事は出来そうにない。


「危ないのは君の方じゃないか!」

「あ、バカ!行くな!」


 孤月の不様な立ち方を見かね、雪登の警告に耳を貸さずに今にも体を貫かれそうな少女の元へ駆ける。

 そして俺は孤月に体当たりし、安全圏へと突き飛ばす。

 だが、その突き飛ばす行動が最後だった。


「がっ…あっ…!?」

 

 孤月に体当たりした直後、俺の胴体をレーザーが貫き、煙を上げる風穴がその体に出現していた。

 痛みが、熱が、脳天を貫いてそのまま体全体へと伝わる。


(あっ…。これ俺死んだな…)


 風穴から遅れて血が吹き出し、足元を赤に染めていく。

 そしてぷつりと糸が切れたように、血の池へと崩れ落ちていく。


「どう…して…?」


 孤月の疑問に答える事は無く――学校生活に慣れてくると同時に、進路への不安も抱え始める高校二年生の春、俺は――人吉一樹は、その人生を終えた。

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