第7話(1/5)

「じゃじゃーん! 見てくださいこれ! なんと奇跡の国数理社英オール平均以上!!」

 そこそこの点数が並んだ解答用紙を、姫宮が大変得意気な表情で見せてきた。


「そりゃああれだけ勉強したらなぁ……」

「むぅ。センパイは可愛くないですねぇ。素直に『すごい! 天才! 文部科学賞受賞レベル!』って褒めてくれればいいのに」

「文部科学省をなんかの表彰だと思ってるやつは、天才じゃなくて馬鹿だ」

「え、そうなんですか!? てっきり文系も理系も出来る人に与える賞だと思ってました……」

「まぁ気持ちはちょっとだけ分かるけど……」

「でしょう? まぁそれはさておき褒めてください!」

 そう言って頭を差し出してくる。左回りのつむじが見えた。頭を撫でろということらしい。


「だってさ藤和」

「え?」

 俺は藤和の手首を引っ張って、姫宮の頭の上に誘導する。


「あ、えっと……ヒ、ヒナちゃんすごいすごい……?」

「うぇっへっへっへ♪」

 姫宮は幸せそうに汚い笑いをあげた。


「と、いうわけで!」


 満足した姫宮は、いつもの定位置ではなくホワイトボードの前に立ち、俺達には座れと促す。


「無事に期末テストも終わったので、ヒナ達を待っているのはなんでしょう! はい、センパイ!」

 指を差されて回答を求められた。まぁ姫宮の言いたいことは分かったので、俺はあえて答えを逸らす。


「期末テストの復習だな」

「ぶっぶー! そんな真面目なことはセンパイ一人でやっておけばいいんですー!」

「いやいや。答えが分かってからの二週目が面白いんだぞ」

 と、かつて神楽坂先輩が言っていた。


「はい、結衣ちゃん!」

 俺のことはすっかり無視して、今度は藤和を指差す。


「え、えーっと…………コンクール?」

「それは頑張って! ヒナ超応援してます! 絶対見に行きます! けど違う!!」


 痺れを切らした姫宮は、予想通り、ホワイトボードにでかでかと『なつやすみ!!』と書いた。


「夏休みですよ夏休み! 高校生にとってこれ以上に大切な時間は他にないでしょう!?」

「いや俺は短いけど冬休みも味があって好きだ」

「あ、分かります。炬燵でぬくぬく漫画読むのもいいですよねー。ってそうじゃなくて!」

 姫宮一度咳払いをして仕切り直すと、本題に入った。


「夏休み、この部活どうしましょう」

「あー……」


 確か夏休み中も部室棟含め学校は解放されている。とはいえ……


「わざわざ休みの日に学校来てまでする活動じゃないだろ」


 理想的な後輩について学ぶ、と謳いつつ、最近はただ宿題をしたり本読んだりしながら雑談して、たまに思い出したかのように「あ、こういうの出来ると良い後輩っぽいですね」と話しているだけだった。


「ですよねぇ正直……」

 さすがの姫宮も自覚しているらしく苦笑いをする。


 これは夏休みは家でまったりかな、と考えていると、藤和がぽつりと呟く。


「……けど、夏休み中、二人に会えないのはちょっと寂しいですね」


「「…………」」


「やっぱ週一くらいならいいか。みんなで集まって夏休みの宿題をするって感じに」

「えっ?」

 どうせ特に予定があるわけでもない。


「……センパイってホント結衣ちゃんには甘いですよね」

「いや、お前だってそうだろ」

「肯定しかしません」

「な、なんか申し訳ないです……」

「気にするな藤和。これは藤和のためというより、むしろ姫宮のためだ。こうしないとたぶん、こいつは宿題をしない」

「…………あははー」

 というわけで夏休みの活動が決まった。藤和の部活がない火曜日だ。


「というか、別に部活なくても会えばいいだけなんですけどね。ヒナ、普通に結衣ちゃんと買い物とか行くつもりですし」

「え、本当?」

「とーぜんです!」

「……ありがとう」

 うんうん。仲睦まじきことは良きことだ。


「そういや、吉澤先輩とかとはその後どうなんだ?」

「え、なんですかいきなり」

「いや、それこそ夏休みで時間あるなら、先輩とかと遊びに行って距離縮めればいいのにって」

「あーそういう。うーん……学校で会ったら挨拶するし、たまにLINEもしますけど、まだ休みに遊びに行くほどじゃないかなーって感じです」

「そうか」

「まぁこの夏休みにバンバンLINEして仲良くなってみせますよ! ヒナの友達含め何人かで遊びに行くくらいはしたいですね」

 姫宮は両手を握って頑張るポーズを取る。


「結衣ちゃんは弦楽部、ヒナは後輩部……。今年の夏は、部活に汗を流す良い夏になりそうですね!」

「うん!」




「……いや、一緒にすんなよ」

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