第4話(3/3)

「あー……」


 俺が死にそうな顔で席に戻ると、大爆笑をする姫宮と、心配そうな表情を浮かべるも笑いを隠せない藤和が待っていた。


「いやぁ、傑作でしたねぇ♪」

「姫宮さんすごいです」

「……確かにあれ我慢してたのは尊敬するわ」

「そうでしょうそうでしょう♪」

「褒めてないから。お前にはポテト奢らないから。きっちり三分の一払わせるから」

「え、ごめんなさい嘘です実はホントに美味しいと思ってたんです馬鹿舌なだけなんです」

「舌じゃないだろ馬鹿なのは」

「んにゃぅ」


 そんな俺達の会話を、藤和がまじまじと見つめていた。


「ほんと仲良いですね」

「うぇへへ。照れますねぇセンパイ」

「なんか妹に似てるからな」

 年齢が同じってのもそうだし、何よりアホっぽいところとか特に似ている。


「へぇ、先輩妹さんいるんですか?」

「おう。ここの一年。有栖由優ってやつ」

「有栖由優……ありすゆゆ……」

 藤和は何度か呟いて記憶を辿っていたが、思い当たる節はなさそうだった。


「姫宮さんは会ったことあるんですか?」

「ありますよー。センパイに似ず可愛いです!」

「うるせぇ」

「へぇ……一度会ってみたいです」

「まぁ同じ学校なんだし、そのうち会うだろ」

「それもそうですね」


 話が一段落したところで、タイミング良くポテトが届いた。ケチャップの小袋も三つ、テーブルに置かれる。


「いただきまーす♪」

「私ケチャップ出しときますね」

「あ……」

「お前この会の趣旨忘れてたろ」

「…………」

 姫宮は無言でストローから自身のアップルジュースに息を吹き込んでいた。


「おーい」

「いやぁ、ちゃんと覚えてますとも。あ、ほら、センパイ。ほっぺにケチャップ付くかもですよ」

 そう言って姫宮は紙ナプキンを差し出してくる。


「そういうのは付いてからでいいんだよ」

「むぅ……」

 紙ナプキンを引き下げ、何か考えるように姫宮は二本目のポテトを手に取ってケチャップを付ける。


「…………センパイ、あーん」

「はぁ? ……あ、あー」

「あ、センパイ。ほっぺにケチャップ付いてますよ♪」

「今お前が付けたんだろ!!」


 目の前に出されたポテトは、俺の口元に来たと思ったらそのままスライドして頬を突いた。口を開けて待ってしまった自分が馬鹿みたいだ。そのポテトは結局、きゃっきゃと楽しそうに笑う姫宮の口に収まる。


「センパイってホント面白いですねぇ」

「お前なぁ、年上をからかうのもいい加減にしろよな……」

 俺は姫宮から無理やり渡されて紙ナプキンで頬を拭きつつ、そう嘆く。


「まぁまぁセンパイ。そう怒らないでくださいよ。そんなにあーんして貰えなかったのがショックだったんですか?」

「んなわけ。トルコアイス屋に対する苛立ちと同じだ」

「ほらほら、ちゃんとあげますから。あーん♪」

 再度ケチャップの付いたポテトが差し出され、今度はちゃんと俺の口に収まる。


「藤和さんもあーん♪」

「えっ。……あ、あーん」

「うん。二人とも大変良く出来ました」

 パンッと両手を合わせる。俺達は芸でも仕込まれてたのか。


「それじゃあ本題に触れてみますけど、一口に気を利かせるって言っても難しいんですよねぇ」

「うんうん。……先輩、何かコツってないんですか?」

「コツって言われてもなぁ……」

 俺はソファに深く座り、斜め上を見上げながら考える。エアコンに付けられた大きなプロペラがゆっくりと回っていた。


「まぁ、ちゃんと知ることだろうな。その仕事のことだったり、相手のことだったりを。そしたら相手が何を求めてるのかも自ずと分かって来るだろうし、有難迷惑でしたってのも防げると思うぞ」


 俺も生徒会に入った当初、不要になったプリントをまとめておいたら、副会長には「紛らわしいから捨てといて欲しいな」と言われた一方で、神楽坂先輩には「裏紙として使えて良いな」と褒められた。同じ行動に対しても、人によって受け取る印象は異なる。


「なるほど……」

「ってことはセンパイに気を利かせようと思ったら、センパイのことをもっとよく知る必要があるってことですね。

「まぁそういうことになるな」


「確かにセンパイと知り合ってまだひと月くらいしか経ってないですもんね。まだまだ知らないことだらけです」

「私なんてその半分もないです」

「よぅし! それじゃあ今からセンパイへの質問大会を開催しましょう!

「なんでそうなる……」

 別に一緒に部活やってたら嫌でも分かっていくだろうに。


「じゃあまずは藤和さん! 何か訊きたいことはありますか? センパイが何でも答えますよ」

「えっ。あ、じゃあ、うーん……す、好きな食べ物ってなんですか?」

「何でもって言ってるのに藤和さんは欲がないですねー」


 そうして他愛無い質問を受けまくって、藤和の歓迎会は終了したのだった。


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