第3話(5/6)
「ちなみに姫宮は怖いものとかあんのか?」
「それが特に……あ、一つありました」
「へぇ、何?」
「ゆるキャラです」
「は?」
なんか意外なものが出てきた。
「正確にはゆるキャラというか着ぐるみになるんですかね。グッズとかイラストなら平気なので」
「ほう」
「え、逆にセンパイは怖くないんですか?」
「いや全然。なんで?」
「だってあいつら、どれだけ身振りは元気いっぱいでも、ずっと無言だし表情変わんないじゃないですか」
「まぁ……」
それは特性上仕方ないだろう。
喋るゆるキャラはたまにいるからまだしも、ころころ表情が変わるゆるキャラの方が怖い。
「ちっちゃい頃とか本気で怖かったんです。だって大人よりも一回りも二回りも大きい生物が、無言のうえ表情一定で近付いてくるんですよ? 恐怖以外の何物でもないじゃないですか」
そう言われればまぁ分からなくもなかった。
「ってことは遊園地のマスコットとかも?」
「あ、そうですね。気軽にハイタッチして一緒に写真撮ってる人とか尊敬します」
「そこまで言うか」
「ぶっちゃけお化け屋敷の方がマシですね。あいつらの方が敵意剥き出しになってる分、無表情で何考えてるか分からないやつより怖くないです」
お化け以上と来たか。なんかこいつと遊園地行ってみたくなるな。と、心の中で小さなサディストが目覚める。
「というわけで、ヒナは着ぐるみが苦手です」
けど……、と姫宮は区切って言った。
「そういうのじゃないですよねぇ……。むしろ女の子は可愛い可愛い言ってるやつですし」
「まぁなぁ……」
「センパイはなんかありますか? 怖いもの」
「そう簡単に弱点を人に教えてたまるものか」
「センパイは殺し屋でもしてるんですか……」
「そうそう学生と二足のわらじ」
「どっかの四コマ漫画みたいですねー」
などと頭空っぽの脊髄反射的な会話をしていると、完全下校を告げるチャイムが鳴った。
「んじゃ帰るか」
「あ、センパイ。傘忘れてたりしませんか? ヒナ、出来る後輩っぽく、折り畳み傘も持ってきたんです!」
そう言って姫宮はドヤ顔で鞄から可愛らしいピンクの折り畳み傘を取り出す。
「いや、朝から降ってたのに忘れてくるわけないだろ」
ましてや今は梅雨なんだし。
「むぅ……おぬし、なかなかやりおるのう」
姫宮は傘を刀のように持って構える。
「遊んでないでさっさと帰るぞ」
「あ、ちょ、待ってください! ……よし、この子はせっかくなのでピンチの時の置き傘にしておきましょう」
姫宮が部室に備えられている小さなロッカーに傘を入れるのを待って、俺は部室を後にした。
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