第2話(1/5)
昨日は結局、洗い物当番だったため早々に下校し、翌日の放課後。
「で、具体的に俺は何をしたらいいんだ」
俺は頬杖をつきながら、向かいに座る姫宮に訊ねた。
「んーっと、センパイに頼みたいのは主に二つですね」
「ほう」
「一口に理想の後輩といっても、仕事的なのと恋愛的なのに別れると思うんです」
「というと?」
「一つは『育てたい若手!』みたいなので、もう一つは『可愛らしい少女!』みたいな」
姫宮はそれぞれ両手の人差し指を立てて、意味もなくくるくると回す。
「ヒナの言いたいこと分かりますか?」
「まぁ、たぶん」
俺が当てはまるなら間違いなく前者だろう。なんせ結局フラれたわけだし。
「そんで俺に頼みに来るってことは、姫宮がマスターしたいのは仕事的なやつってことか」
「いえいえ、どっちもです!」
姫宮は立てていた人差し指を俺に突き立てると、小さくバキューンと呟いて見えない何かを撃つ。……姫宮の癖なのか、さっきから所作が騒がしい。
「けど、俺にそんな乙女力なんてないぞ」
「乙女力って表現で、センパイから乙女力を学べそうにないって分かりますね」
姫宮は指の付け根くらいまで伸ばした袖を口元に当ててくすくすと笑う。ちょっとムッとしたが、確かに自分でも無骨な言葉だと思う。
「まぁ、そっちはそれなりに自信がありますし、自分で学んでいけると思うんで、センパイにはその被験者になって欲しいのです」
「……どゆこと?」
「ヒナが随時、可愛いなーって思うことしていくので、センパイはそれに対する感想を言ってください」
「…………?」
俺がどういうことか飲み込めないでいると、姫宮は「例えばですねぇ……」と言って、おもむろにハンドクリームを取り出した。
そしてそれを手に広げると、
「あ、出し過ぎちゃった。……えいっ。センパイにあげます♪」
柔らかくキメの細かい肌が、油膜を隔てて俺の手を包む。
「……どういうつもりだ」
「え、ネットで見たんですけどどうですか? 萌えませんか? ドキドキしませんか?」
「……別に」
「そんなぁ」
「俺年上派だし」
「年上っていうか神楽坂派ですよねー」
「うっせぇ」
「まぁ、男子高校生の一人として客観的に感想くれたらおっけーです♪」
客観的ねぇ……。
「ま、ほどほどに頑張るよ」
「よろしくお願いしまーす♪」
姫宮は両手を合わせてお願いのポーズを取る。わざとらしい可愛さが溢れていた。
「で、あとはもう一個の方ですねー」
「育てたい若手ってやつか」
「ですです。センパイって、なんであんなに神楽坂会長に気に入られてたんですか?」
それは去年、幾度となくされた質問だった。
「ぶっちゃけよく分からん。直接聞いたこともないし。……あーでも、意識してたことはいくつかあるな」
元から出来ていたのか、先輩に教わって出来るようになったのか、今となっては分からないけど。
「そういうのを教えて欲しいんです!」
「まぁいいけど……」
別に門外不出の秘術というわけでもない。
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