第3話 ■社内規定の変更

■社内規定の変更


臨時の会議が朝から開かれた。

「えー、皆様にも届いていることかとは思いますが、政府からのガイドラインが発足されました。皆様には一国民としてのガイドラインが配布されていますが、この度は政府から企業へ向けたガイドラインの共有について臨時の職員会議を開かせていただきました…」社長は誰もが知ってそうな前置きの内容をグダグダと話した「そして我が社としても政府のガイドラインに伴った社内規定の変更を致すことに致しました。まずは政府の企業に対しての義務としているのは『お客様や取引先の女性への対応は以前と変わらぬように』とのことです。おそらくこれは経済が停滞するのを恐れてのことだろうな。なので男性社員の方々はくれぐれも女性のお客様に対しては以前と同じように接してください。そしてここからが、女性社員には 大変申し訳ない のですが、これも国からの意向ですので心して聞くように『女性のスタッフはお客様や取引先相手問わず、社内外から求められたことには可能な限り対応することとする。正当な理由なく断った場合は組織と個人の両方に罰則を与える』とのことなので・・・、えー、女性社員の皆さんはくれぐれもお客様に失礼などが無いように気を付けてください。」

女性社員は顔を見合わせて動揺を隠せずにいた。

なにが『大変申し訳ない』だ。1ミリの本心も感じさせられぬ言葉。こんな安い言葉で私たちにこんな仕打ちをさせようとしているのが信じられなく、悔しかった。

そもそも求められたことに可能な限りとは、どの程度までのことをさすのか?本当に不可能な事とはどの程度のことなのかの想像もつかないまま、社長は変更、追記される社内規定について話を進めていった。

「社内規定の変更についてですが、これは他社も取り入れるであろう規定ですので、決して我が社だけの方針では無いということを前提にお話しさせていただきます。

① 女性社員は男性社員が働きやすい職場づくりを意識しながら働いてください。

 これに関しては男性社員も感謝して日々の業務に取り組むように。


② 夏場は極力薄着で政府の推奨するクールビズによる温暖化の抑制に貢献すること。夏場の行事などによっては、SDGsの観点から水着などを着用とした業務にも順守すること。

 政府のガイドラインの定める基準値よりも肌の露出部位が少ない場合は反則金を支払うことで刑罰は逃れられる。」

社長の言葉の節々には、男性側に落ち度が無く、これが当然といったような遠回しの言い方に苛立ってしまったが。その反応を周囲に知られることは絶対避けたかった為、作り笑顔を浮かべてメモをとる演技をした。

「③男性社員に言われたことは極力従うこと。

以上です。

今後も情勢を見ながら、社内規定の変更などはあると思いますが、どうか悪しからずご了承ください。」

なんともサラッとした言い方で社長の話は終わろうとされていたが、とても重要なことを言っていた気がした。

この重要な語句を聞き逃すわけにはいかなかった。

「あの、社長・・」

「ん?なんだね?」

「最後におっしゃられた③に関してなんですが、極力というのは、どのような事態を想定しているのでしょうか・・・?これは我々と男性側の解釈がずれていると危険なので」

「極力という意味もわかんないのか?出来る限り従うということ、つまり出来ないこと以外はするということです。皆さんもわかりましたか?」

その言葉を聞いてそれ以上言葉が出なかった。こんな絶望にも突き落とされそうな言葉を放たれているのに、他の社員たちは何事も無いような顔で話を聞き納得している。


男性社員は自らで考えることをやめて、欲望にのめりこむように

女性写真は自らで考えることをやめて、現実逃避にはしるように


私はあふれ出しそうな涙を必死にこらえることにした。

まだ、味わってないのだから・・・本当のこの法律の力をまだ何も。


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