颯爽と現れて僕の命を救った銀髪美少女に過保護に甘やかされて冒険する物語〜ついでにいえば初めて出来た友達はイケメン貴族で赤髪美少女の幼馴染のいるハイスペック野郎だったけど何故か憎めない件〜

しゃみせん

第一章 王都編

第一部 ハクト=キサラギ

第0話 始まり

 結果的に、世界を救う事になった僕達の『物語』は、三年前のアノ日が始まりだったのかも知れない。





◆◆◆◆◆◆




「おいハクト! 逃げてばっかりいないでちゃんと戦えよ!」


「やだよ! ベンタスみたいに図体のでかい奴となんでマトモに戦わなきゃならないのさ!」



 そう言いながら僕はベンタスの足を引っかけて転ばせ、喉元に拳を突き付ける。



「これで僕の勝ちだな」


「……あぁ、俺の負けだよ。ちくしょう、いっつもハクトはこすい勝ち方をしやがる! 正面でぶつかれば負けないのに!」


 ベンタスの手を掴み、立ち上がらせる。



 今日も僕達は戦いごっこで遊んでいた。娯楽の少ないこの村では、外に出れば必ずどこかの子供達が集まって遊びが始まる。男は力比べをしたり、女は手遊びをしたり。


 15歳から成人として扱われるこの国では、村の中で今12歳の僕達が子供の中の最年長だ。ちびっ子達を引き連れて野山を駆けたり、力比べをしたりして日々を過ごしていた。






 そんな慎ましい平穏な日々に、転機が訪れた。




 ある日、村に一人の旅人がやってきたのだ。辺鄙な村なので行商人以外で人が訪れる事は滅多になく、怪しい人間でなければ村を上げてもてなした。


 その男も見た目は普通の人だった。なんでも旅の途中に事故に遭い、乗っていた馬車は壊れ馬も逃げ出してしまったと。


 ギリギリ持てるだけの食糧を持ち、二日間歩き通してやっとこの村を見つけたそうだ。



「受け入れて頂き、本当に感謝致します。私が持っている物はこれだけですが、感謝の証として受け取って下さい」


「なに、礼には及びません。困っている人がいれば差し出す手くらいは私達も持っている。何もない所ですがどうぞゆっくり養生してくだされ」


 当時の村の長老は男にそう言うと、その晩は宴会になった。



 僕等からすると宴会はお祭りみたいなものだった。


 年に何回かしかないお祭り。お客さんが来た事で突然それは始まった。


 村の中央で大きな火が焚かれ、輪になって火を囲む。

 男達は酒を手に、女は料理を用意し、飲めや歌えの大騒ぎだった。


 子供達は、普段夜の外出は禁じられていたがこういう時だけは大人に混じって大騒ぎをする。焚火の周りを駆けずり回り、間違えたと言っては酒を口にしてみる。


 あちこちで喧噪が広がる中、輪の中心には旅人の男がいた。


 旅人というだけあって、男の見識は広いようだ。村の男達はこぞって旅人から話を聞き、その一言毎に感心の声をあげていた。



「そうかい、じゃああんたも旅をしながら大変な目にあったんだな。ご苦労なこった。長老様も言ってたがよ。この村は何もない。だけどゆったりとした時間だけはある。体が癒えるまでここにいると良い」


「ええ、本当に助かります。……この村は良い所ですね。お酒は美味いし料理も旨い。子供達も皆明るくて元気だ。何人くらいいらっしゃるんですか?」


「えーとなぁ、子供達は30人くらいかな。村は全部で200人くらいだ。小さい村なんだけどよ、何年か前に村で作ってる小麦がお墨付きを貰ってよ。値段も前の倍くらいで売れんだよ! 最近少しだけ生活に余裕が出てきて、それで美味い酒も飯も用意できるようになったんだ。遠慮しないで腹いっぱい食ってくれよな!」


「そうですか、それはそれは……」



 酒が入り饒舌になった村の男達は、そんな他愛もない話を旅人と続けていた。


 そうしていつしか宴会はお開きとなり、旅人はしばらく長老宅で面倒を見る事になった。


 それからしばらくは同じような日が続く。大がかりな宴会はないにせよ、毎晩男達が長老宅へ酒を持ち寄り、旅人と話しをする。そんな日が続いていた。



 そしてその平穏は突然終わりを告げる。



 ある日の晩、いつもの様に長老宅へと集まろうとしていた男達が、家の前で集まっていた。それぞれの表情には緊張が見え、中には大声で怒鳴っている者もいる。



「おいっ! やめろ! 自分が何をしているか分かっているのか?」


「ええ、もちろん。私はこの為にいるんですからね。貴方達こそ、そのままでいいんですか?」



 旅人の男は、長老を後ろから羽交い絞めにし、その首にナイフを突きつけていた。


「お、お前達……、すぐに家に、備えを、──ぐっ!」


「それ以上余計な事は喋らないで貰おうか。大丈夫、大人しくしていれば命までは奪わない」


 男がそう告げると同時に、暗闇から馬蹄の音が響く。それも一つじゃない、相当な数だ。


 そしてそれはやってくる。門とも言えないか弱い村の門をなぎ倒し、暗闇の中からやってきたのは真っ黒な騎馬達だった。


 そのどれもが剣や槍で武装し、村の人間達を舐めるようにみて回る。


「なんだか辛気臭え村だなぁ。本当にこんな所で稼げるのかよ!」


「まあそう慌てるな。見てみれば分かる。ほら、こいつらがボケッとしてるうちにさっさとやっちまうぞ」


 おうっという、低く野太い声で男達は応じると、それぞれ散らばって村の家を漁りに行く。



「やめろお前達! 人の村をなんだと思ってる! やめろ、やめるんだぁっ!!」


 村の男達は必死で盗賊と思しき者達を制止する。女達は手早く子供を家に入らせて、不安げな顔で状況を見守っていた。必死の制止は全く効果を示さず、盗賊達はずかずかと村の家々を荒らしに動き始める。




 そして、そこからは地獄だった。


「お、お父さぁぁーん!!」



 盗賊達を止めようと制止する男は、その剣で突然斬りつけられた。

 腕を落とされ足を抉られ、抵抗の激しい者は容赦なく殺されていく。

 それを必死で止めようと子供が縋るが、父親と同じ運命を辿る事になった。




「やめて……、やめてよぉ……。やめてぇぇぇぇぇ!!」



 僕の必死の叫びは、誰の耳にも届く事なく、村人達の悲鳴に紛れて消えてしまった。


 目の前で、昼間一緒に遊んでいた女の子が盗賊に襲われている。その親は、既にその横で息絶えていた。



 ──何も考えられなかった。ただ次の瞬間には、もう体が動いていた。


「おおおぉぉぉ!!」


盗賊に向けて叫びながら突っ込んでいく。僕の声で盗賊が振り向き、こちらに向けて剣を構える。


 ……かまうもんか! 絶対に助ける!!


 馬鹿正直に正面から突っ込んで行く僕に対して、盗賊の血塗れの剣が振るわれた。その刃が僕を斬り裂く、その瞬間に盗賊は横に薙ぎ倒されていった。


「おいハクト! 大丈夫か!?」


 そこには僕の親友のベンタスがいた。ベンタスが盗賊を蹴り飛ばしたのだ。


「流石だ、ベンタス! ありがとう! 早くあの娘を」


「ああ、そうだな!」



 襲われていた女の子を見ると、既にそこにはもう一人の親友、キャロルがいて、強く女の子を抱きしめていた。


「大丈夫、この子は私が見てるから! あんた達は早くアイツを!」


 指を指した先には、ベンタスの蹴りから立ち直りかけている盗賊の姿が。

 盗賊が立ち上がりきる前に再び僕とベンタスで畳み掛け、なんとか取り押さえる事が出来た。縄で手足を縛り、杭に縛り付けておく。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。ここは、なんとかなった……。み、みんなは?」



 辺りを見廻すが、やはり状況は芳しくない。村人達は盗賊に良い様にいたぶられ、止むことのない悲鳴が響き続けていた。


 一体どうしたらいいんだ……! 変えようのない現実に怒りと恐怖を覚えていた時、それは訪れる。




 ──ヒュッ



「ぎゃあ!!」



 突然、長老を抑えこんでいた男が悲鳴を上げる。よく見れば男の右目には細い棒が突き立っており、それはこの村で狩猟の時に使われている矢であった。


 ──ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ




 立て続けに矢は放たれ、その一射ごとに確実に盗賊達を仕留めていく。



「お前ら、散らばれ! 矢に気をつけろ!」



 盗賊の首領の様な男が慌てて声を上げるが、時は既に遅かった。辺りを見渡せば、矢の突き立っていない者の方が少なく、急所を貫かれたのか皆その場で蹲っている。


「畜生、誰だ! 何をしやがる!」


「人の村を荒らしておきながら随分な物言いだな。俺達はお前らを許さない! 全員死ね!」



 村の暗がりから出てきた男達は、この村での狩りの名手達だった。山を駆けて獲物を必ず仕留める、この村の英雄だ。──そして、僕の父さんもそこにいた!


 名手達は夜である事を微塵も感じさせず一射、また一射と矢を放ち盗賊達を沈黙させる。


 蹲る盗賊達に近寄ると、躊躇う事なくその首を斬り次々と血を噴出させていった。


「ひぃいっ! お、お前ら、ずらかるぞ!」



 僅かに残っていた盗賊の残党に声を掛けるが、既に返事はない。生きていたと思われる者達は、まもなく死にゆく者達だったからだ。


「後はお前だけだ。全て話せば生かしておいてやっても良い」


 尻餅をついて後ずさる男に、父さんが声を掛ける。


「あ、ああ、なんでも話す! だから殺さないでくれ!!」



 誇りを捨てたのか、盗賊の首領は全て洗いざらい話をする。


 最初の旅人は、身分を偽って村に潜入する。村の蓄えや価値、兵力を鑑みて判断し、攻めないと判断したら三日で村を出る。落とすと決めたらその翌日の夜に襲撃するという筋書きだったようだ。

 この男達は小規模の盗賊団で、うちの様な小さい村だけを狙っていたという事だ。




「お前達は、そんな事で罪なき人々をどれだけ殺してきたんだ……!」



 父さんの拳が、怒りに震えている。



「仕方ねえだろ? 俺達だって生きていくのに必死だったんだ。なぁ、許してくれよ? 全部話したじゃねえか。殺さないって約束しただろ?」


「……あぁ、約束したな。分かった、お前は殺さない。ただ村にいられるのは不快だ。ついてこい」


 そう言って、父さんは盗賊の首領を連れて闇の中に再び消えて行ってしまった。





「えぇぇぇぇん、お父さぁぁぁん!!」


 子供の泣き声で現実に引き戻される。父さんのいなくなった暗闇から村に視線を戻すと、そこには思わず目を背けたくなる様な悲惨な現状が待ち受けていた。


 盗賊達に殺されてしまった村人達。家族を守ろうと必死に戦った父親。その父に縋る様にして殺された子供達。


 そんな惨状が村のあちこちに散らばっていた。




 無傷な村の男達が、黙って盗賊の死体を片付け始める。僕やベンタスも影から飛び出し、慌てて手伝い始める。


 多分、普段ならこんな事子供にやらせない。でも、今はそれどころじゃないんだ。村の一大事なんだ。



 盗賊の死体を片付け終わった後に、村の人達の遺体を一ヵ所に静かに並べる。

 持つ手が震え、呼吸が荒くなり、涙が自然と溢れてくる。


 なんで、なんでだよ……。昼間まで一緒に遊んでたじゃないか。さっきまで一緒に話をしていたじゃないか。




 もう、彼等が笑う事はない。彼等が話しかけてくる事はない。失われた日常が戻る事はない。




 僕は、許せなかった。




 日常を奪っていった、盗賊を。


 残酷な運命を突き付けてくる、世界を。


 そして、何も出来なかった、自分自身を。




 守りたい。僕はこの人たちを守りたかった。

 だったら、守れる様に強くならなきゃ。


 怒りと後悔に震える僕の拳に、二つの手がそっと添えられる。

 顔を上げて見れば、そこにはベンタスとキャロルが、静かな決意を秘めた眼で僕を見つめていた。




 この日この時この場所で、僕の目指すべき未来は姿を見せた。





────────


【あとがき】


本作をご覧頂き誠にありがとうございます。

執筆中ではありますが、本作は四章構成の長編となっております。


精一杯書いて参りますので、⭐︎や♡、コメントなどで応援頂けると大変励みになります。


これからも宜しくお願いします。

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