青いヒヤシンスは夜に咲く
兎舞
01:えっ…?!
いつものように
でも、確かに言った。理解できないけれど。
きょとんとしたまま固まっている深雪に、悠はもう一度同じ言葉を繰り返した。
「うん、俺、彼女出来たんだ」
彼女。カノジョ。かのじょ…。恋人、ってこと?
深雪の脳内で、やっと単語と意味と、自分への重みがリンクした。その瞬間、深雪の血液が一瞬で泡を吹きだし全身を駆け巡り出す。心臓が普段の10倍くらいドンドン鳴って痛い。視界が狭くなる。後ろから固いもので殴りつけられたような衝撃が襲う。
「深雪とは、いつも一緒だし、何でも話せるし。だから…最初に言うね」
そう、深雪と悠は子供の頃からずっと一緒だった。
生まれた病院も、幼稚園も、小学校も、中学も、今年から通い始めた高校も一緒。毎日一緒に通学し、下校し、どちらかの親が不在の時はどちらかの家で夕食を食べ、連休になれば両家族で旅行へ行くことも珍しくなかった。
悠のことを一番理解しているのは自分だと、信じるより強く、自明のこととして認識していた。
そして、それほど一緒にいる悠は、今はもう自分の「彼氏」なのだと思い込んでいた。
その悠から『彼女が出来た』宣言をされた。
思考が、中々元に戻らない。何を言えばいいのか、自分が今どんな表情をしているのか、明日からどうやって生活していけばいいのかもわからない。
自分を構成しているどでかいピースが、急にぽっかり消えてなくなったような心許なさに、深雪は呆然としたまま悠を見つめていた。
悠は続ける。
「図書館で、借りる本がよくブッキングして、棚の前で顔を合わせることが多くなって…。お互い同じ本を読んで感想を交換しているうちに…。すごく素敵な人なんだ!優しいし、大人だし。あ、大学生なんだけどね」
大学生?!
そのたった一つのキーワードで、深雪の脳が覚醒した。
「大学生って…、少なくても3つは年上ってこと?」
「うん、2年生だから4つ上かな。英文科でね、海外文学も詳しくて面白い本たくさん紹介してくれるんだ」
「そ、そういうことじゃなくて…、4つも上?超おばさんじゃん!」
頭に血が上っている深雪は、自分が何を言ってしまったのか理解してなかった。
が、目の前の悠は、カラーから
「静香さんはおばさんじゃない」
悠の、聞いたことがないほど低く感情の消えた声を耳にして、深雪はハッとした。しかしすでに遅かった。
「深雪は俺の一番の理解者だと思ってた。だから一番に話したけど…話さなければ良かったよ」
もう悠は深雪を見ていなかった。
「帰るね」
悠の彼女出来た宣言で沸騰した脳と、己の失言によって悠に嫌われただろう予感で凍り付いた心臓を抱え、深雪はしばらくその場から動けなかった。
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