第8話 模擬試合 vsコルツ

 キュリーと一緒に四階の教室の扉を潜った。するとその教室に居る全員からの視線が俺とキュリーに向けられる。


 好奇の目と生ゴミを見る目が混ざったような視線だ……ここでの第一声で今後の印象が決まってくるぞ!


 俺は一回深く呼吸をして自分の心の中を落ち着かせてから口を開く。


「今日から同じ学年のソレイアだ!よろ……「ソレイア。この教室に居る人達から視姦されてます」……台無しだよ!!」


 俺が自己紹介を兼ねた挨拶を丁寧に話している最中にキュリーがとんでもない言葉を重ねて、もうこれからの学校生活が暗闇に包まれることは間違いないと思われた。


 だが、実際にはそんなことにはならなかった。教室にいた俺とキュリーの自己紹介を見ていた生徒はさっきのやり取りを漫才と認識したのだろうか、面白い人達が同じ教室に来たなどと意外にも好印象だった。


 俺は主に男子生徒に去年まで首席だった人だよなとか、首席だった人と同じ教室で学べるなんて楽しみだとか、キュリーみたいな彼女とどうやったら付き合えるのかと色々な質問された。


 キュリーも女子生徒に囲まれて色々と質問されていた。


 また変なことを言わなければ良いけど……。


 そのうちにスロイン先生が入ってきて今日の授業が開始された。


「今日はこのクラスに二人も加わったから午前と午後両方とも模擬試合を行う。午前と午後の半分までは個人戦で午後の残り半分で五人チームの団体戦をして貰うよ」


 模擬戦かぁ。キュリーも中々に強いみたいだし戦ってみたいなぁ。


「ソレイアは去年までの首席だったから……このクラスで一番強いコルツが相手で模擬戦をして貰うよ。その他の生徒はクジで相手を決めようか」


 スロイン先生はクジを用意してクラス全員にクジを引かせて組み合わせを決めた。


「スロイン先生。私がクジを引いていません」


「キュリー君は強すぎてこのクラスに相手をできる人がいない。だから個人戦は無しだよ」


「いいえ。相手ならスロイン先生かソレイアがいます」


「私は監督の役割があるから相手になれない。ソレイアが二回戦ってもいいなら相手になって貰うと良い」


「俺は良いですよ。むしろキュリーと戦ってみたいです」


「はい。手加減は無しです」


 俺の返事を確認したスロイン先生はクラスにいる全員に試験場に集まるように指示した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 昨日キュリーの試験を実施した試験場にクラスの全員が集まった。


「集まったね。この試験場の二ヶ所で同時に二組ずつ模擬試合をして貰うよ。試合を行わない人はどちらか一方の模擬試合の見学をしていてね。じゃあまずは……」


 スロイン先生が最初の組み合わせを発表し、模擬試合が始まった。俺は今いる位置から近い方の試合を見学しに行った。


 へぇ、悪くないな。平均的にレベルが高い方なんじゃないか?


 剣もしくは槍と魔法を用いた戦闘を双方とも行っていた。しかも、基本を踏襲しながらも自分なりのアレンジが見られる戦い方だった。


 それから決して低くないレベルの模擬試合が繰り広げられ、最後の模擬試合の組み合わせとして俺とコルツが呼ばれた。俺とコルツは若干下に位置するフィールドに降りてお互いに距離を取った。


「去年の首席と戦えるなんて良い機会だ。今の自分がどのくらいの位置にいるかを試させて貰うよ」


「俺も負けられない。本気でやらせて貰うよ」


 スロイン先生の開始の合図と共にコルツは動き出した。手から風の球を作り出し俺の目の前の地面に向けて放つ。俺は大きく飛び退きながらお返しとばかりに氷の球の中に爆破魔法を仕込んで放った。


 氷の球はコルツに向かう途中で爆発しその破片がコルツに襲い掛かる。コルツは炎の壁を発生させて氷の破片を全て防いだ。


 コルツはその炎の壁をそのまま槍に変形させ俺に飛ばす。


 魔法の威力的に俺と同じくらいの魔力量だな。


 俺はコルツの炎の槍を相殺させるために同じく炎の槍を発生させて飛ばしたが、俺の方の魔法がかき消されて俺に向けて炎の槍が飛来する。


「!」


 咄嗟に姿勢を低くし左手に風の渦を発生させて、飛んできた炎の槍に左手を添えて槍の軌道を上にする事でなんとか躱した。


 そしてその低い姿勢のまま右手に持つ剣の先から爆発させて前への推進力を発生させた。そんな俺に向けてコルツはもう一度炎の槍を飛ばした。俺はその炎の槍を左手の平に薄く風の渦を発生させて炎の槍を掴んでそのまま突っ込む。


「は!?この!」


 コルツは咄嗟に剣を振るが、俺も右手の剣でコルツの剣を受け止めて左手に掴んだ炎の槍を突きつけた。


「そこまで!」


 スロイン先生の模擬試合の決着の合図で俺は炎の槍を投げ捨て右手の剣を納めた。コルツも同様に剣を下げた。


「さすが去年の首席。俺には考えつかない戦い方をするんだな」


「それが俺の強みだからな。お前も中々良い動きだったよ」


「ありがとう。また相手をしてくれ」


「あぁ、そのうちな」


 コルツとお互いに褒め合い握手を交わす。俺が上に戻るとキュリーが一人で待っていた。


「ソレイア。次は私と試合です」


「……なぁキュリー。魂がないときは本当に身体の時間が止まるのか?」


 俺は明らかに自分の魔力量が衰えたのをさっきの模擬試合で感じたこと。その例えとして相殺できる威力の魔法を相殺出来なかったことをキュリーに話した。


「はい。時間は止まります。ただソレイアの場合は特殊なのでなんとも言えません。私も魂と身体について詳しく知っているわけではないですから」


「そっか……分かった。自分で色々試してみるよ」


「はい。私に出来ることはお手伝いします」


「取り敢えず模擬試合をしようか」


「はい。初めてなので優しくして下さい」


「……そういう事を周りに人がいるときに言わないでくれよ?」 


 俺はキュリーを伴って先程コルツと戦った下のフィールドへと向かった。

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