第4話 魂の在り方

 俺はその人形の様な女の子の横に添えられている手紙らしき物に手を伸ばした。


 その手紙の封を切り中身を確認すると、手紙にはこう書かれていた。


 贈るのが遅くなっちゃってごめんねぇ?君の妹さんが素晴らし過ぎてぇ時間を忘れて夢中で作っていたよぉ。その子は私の前の最高傑作だよぉ。大事に使ってあげてねぇ。あのときも言った通りにぃその子は返さなくて良いからねぇ。あと妹さんはぁその子を超える最高傑作になったよぉ。楽しみにしててねぇ?


 舐めやがって!ルネが作品だと!?ふざけるのも大概にしろよ!


 俺は怒りに身を震わせた。その瞬間に身体に力が満ちるのを感じた。


 でも、ルネが生きているかも知れないってことだろ?それが分かっただけで十分だ!


「この子が作品だと?人形…じゃないよな」


 箱の中の女の子に目を向けて、俺はその子を起こそうと手を伸ばした。俺がその子に手を触れる前にその子は目をゆっくりと開いた。


 そしてその子はゆっくりと起き上がり箱の外に出て俺の前に立った。


「質問です。貴方の名前は?」


 いきなり立ち上がって声をかけられたことに俺は少し驚く。


「そ、ソレイアだけど」


「そうですか。私はヴァルキュリエと申します。キュリーとお呼び下さい」


 その言葉を最後にキュリーは何も喋らなくなった。そしてずっと俺を見つめてくる。


「な、何か用があるの?」


「いいえ。特にはありません」


 無いのにコッチ見つめないで欲しい。流石にそんなに見られると恥ずかしくなってくる。


「君は……キュリーは、その……作品なのか?」


「はい。私は汎用型はんようがた自律人形じりつにんぎょうのヴァルキュリエです」


「……人では無いと?」


「どちらとも言えません。ベースは人ですが体内は調整の為にあちこち弄られています。ただソレイアが想像している様な人形とは全く違うものです」


 そんな!ルネも同じ目にあってるかも知れないってことか!?


「……ルネって子に聞き覚えはないかい?」


「はい。私を創った死神がその名前の個体を最高傑作と言っていました」


「っ!じゃあ!そこに案内してくれないか?」


「いいえ。私はここからその場所への行き方を知りませんので案内は出来ません」


「そ、そうなんだ」


 ルネへと繋がる道が速攻で切られたことに俺はかなりショックを受けた。


 くそっ!最短でルネへと届くと思ったのに!


「ソレイア。どうかしましたか?」


「あ、いや、何でもない。それよりもいつまでも立たせてごめん。居間に案内するから付いて来て」


「いいえ。お気になさらず」


「……いいから」


 俺がそう言うとキュリーは俺の後を居間まで付いて来てくれた。


 うわぁ。汚ねー。この居間の現状を見ると本当に一年経ったんだって感じがする。


「なるほど。私に掃除をして貰いたくて此処に連れて来たんですね?」


「そ、そんなつもりじゃ……」


「任せてください。私は汎用型ですので掃除、洗濯などの家事も完璧にこなすことが出来ます」


「……じゃあお願い出来るかな?」


「はい。では座ってお待ち下さい」


 キュリーは居間の掃除を始めた。そしてみるみるうちに幽霊屋敷だった部屋が、綺麗になっていき半刻も待たずに部屋の掃除を終えた。


「終わりました。ですが、どうしてこんな状態だったのですか?」


「それは……信じられないかも知れないけど一年くらい寝ていたらしいんだ」


「なるほど。魂を抜かれた状態で動けなかったから部屋が汚ていたのですね」


 ……は?何だって?魂を抜かれた状態?


「そもそも魂って?それと、魂を抜かれた状態っていうのは?」


「はい。私が知る限りのうちで説明します。魂というのは人間が持つ性格や感情などのことです。私を創った神などの死神が持っているソウルハーベスターで人間の魂を具象化させて、身体から魂を全て抜き取られると人間の身体は時間を止めた状態になります。なので成長や劣化などの時間が経過して起こる事象も全て止まります」


 ……あの大鎌で斬られたときに身体から吹き出した炎が魂だろう。死神にあのとき魂を全て抜かれたからおじさんやルネは動かなくなったのか……。


「魂を抜かれた人は死んでいる訳ではないんだよな?元に戻す方法はあるのか?」


「はい。死んでいる訳ではありませんので、魂を身体に戻せばは問題なく動くと思います」


「身体自体は?」


「はい。元々の魂とは別な魂を定着させることも可能ですので、完全に元通りにするには十全な元の魂が必要です」


 それならルネの身体にルネの魂を戻せば、元に戻すことも可能ってことだな!希望が見えてきた!


 ただ一つ引っかかることが一つの不安を感じて、キュリーに確認をした。


「……なあ。死神が魂を食べたりすることってあるのか?父さんと母さんの魂を食べたって言ってたり、俺の魂を半分くらい目の前で食べて見せたんだ」


「はい。人間の魂は死神の嗜好品しこうひんとして食べられることもあります。死神に魂を食べられた場合はその人の身体と魂が両方が死んでしまいます。なので別の魂を死んだ身体に入れても二度と動くことはありません」


「じゃあ何で俺は生きている?」


「申し訳ありません。半分だけ魂を食べられて身体にもう半分の魂が残っているという事例は聞いたことが無いのでお答え出来ません」


 俺は初の事例ということか……。それにあの死神の言っていたことが正しいならやっぱり父さんと母さんはもう……。


「でもルネは死んでないんだろ?」


「どちらとも言えないです。ただ最高傑作と言っていたので死んでいることはまずないと思います」


 それが分かっただけでも俺にとっては良いことだ。父さん母さん……俺が必ずルネを取家に連れて帰るよ。


 一通りすぐにでも聞きたいことを聞いた俺は、キュリーが一年間放置された居間を掃除して身体が汚れていることに気付いた。


「そんなに汚れるまで掃除してくれてありがとう。風呂場も汚れてるかも知れないけど、お風呂に入って来たら?」


「はい。ソレイアがそうしろと言うならそうします」


 そう言ってキュリーはその場で服を脱ぎ始めた。


「ちょ!ちょっと!何でここで服を脱ぐの!?キュリーは俺に見られてるのに恥ずかしくないの?」


「?。はい。恥ずかしくないです」


 俺の方がおかしいみたいな顔しないでくれよ……。


 そう言ってキュリーは服を全て脱ぎ捨てた。人形の様に整った頭身に白い肌、背は俺より頭一つ小さいくらいだから女性としては少し背が高いくらいだろう。そして、


 胸は大きすぎない程よい大きさで、お腹のくびれもしっかり出てて、お尻も……って!何をじっくり観察しているんだ俺は!


「ソレイア。補足しますが私は汎用型ですので夜伽よとぎも完璧にこなせます。なので裸を見られることに羞恥心を覚えることはないです」


 ぶ、ぶっ飛んでやがる!


「と、とにかく!これからはお風呂に入るときは風呂場で服を脱いでくれ!」


「はい。ソレイアがそう言うならそうします」


 そう言って服を両手に抱えて全裸のまま風呂場に向かうキュリーの背を見送った。

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