死を間近に感じたことはありますか?そのときに大事な人は側に居ますか?

ぐらお

第1話 嵐の前の団欒

 俺はあの空が黒く埋め尽くされたあの朝は絶対に忘れない。父さんと母さんを殺し、妹を拐って行ったアイツ等を絶対に許さない。でないと俺は身体すら自由に動かせなくなってしまうから。


「必ず連れて帰るからなルネ……」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ソレイアー?家の中に居るー?」


「居るよー!」


 俺は母さんに呼ばれたので二階にある自分の部屋から出て一階に降りる。


「ルネとお父さんがもう少しで帰ってくるから外の庭から野菜取ってきて貰える?今ちょうど手が離せなくて……」


「分かったよ。何を持ってくれば良いの?」


「トマトを三つくらい持ってきて貰える?」


 俺は頷いて玄関から外に出た。外の庭でトマトを三つ千切ってから手に抱える。


「今日は休日だからなぁ。俺も事前に騎士学校が休みになるって知っていれば父さんに達付いて行けたのになぁ」


 そんな事を一人で呟いても後の祭りなので後悔してももう遅い。


 俺は家の中に入り母さんに頼まれていたトマトを手渡す。


「ありがとうソレイア。もう少しで夕飯が出来るから待っててね?」


 母さんが夕飯を作り続けて、三十分程度経った頃に父さんとルネが帰ってきた。


「帰ったぞー」


「ただいま帰りました」


 母さんと俺で二人を出迎える。


「お帰りなさい。お父さんとの王都でのお買い物は楽しかった?」


「はい!とても楽しかったです!兄様も来てくれればもっと楽しいと思えましたのに…」


「今日が急に休みになるなんて思ってなかったんだよ。仕方ないだろ?」


「欲張りな私は兄様にも祝って欲しいのです……兄様には後で埋め合わせしてもらいますよ?」


「……分かったよ。そのうちな」


 母さんがこの場を閉めようと柏手を打った。


「はいはい。続きは夕飯を食べながらね?」


 四人は一旦それぞれ部屋に戻って着替えるなり荷物を置いてくるなりと各々の準備を終えてから食卓に着いた。


「じゃあ母さんの美味しいご飯を頂くとしますか!」


「もう!お父さんたら!」


 はいはい。ラブラブ夫婦なのはもう分かってるから。


「いただきます!」


 父さんのその言葉の後に母さんたちと俺も続く。


「「「いただきます」」」


 やっぱり母さんのご飯は美味しい。食べたことは無いけど一流の料亭に負けてないと思う。


「それにしてもソレイアに続きルネも首席になるなんてな。これで騎士学校と魔法学校の首席の座はウチの子達で独占だ。いやぁ才能ある子供達に恵まれて父さんは幸せだぁ」


「でも俺と違ってルネは本物の天才だよ。俺もその才能が欲しかったよ」


 ルネは間違いなく天才と呼ばれる人種の一人で、生まれ持った魔力量が常人の十倍で、魔法陣を構築する速度も大人の一流の魔法使いより上というまさに規格外という言葉が似合う妹だった。


「兄様は努力の人じゃないですか。私よりもよっぽど人として優れた人ですよ」


「……天才に言われると嫌味に聞こえるんだが?ルネは俺のこと嫌いなのか?」


「ふふっ。兄様がふてくされている姿はとても可愛いらしいですね。……私は嫌味でそんなことを言ったつもりは無いですよ?兄様にはその磨かれた戦闘のセンスと持ち前の魔法の応用力で騎士学校の首席になったじゃないですか」


「お世辞でも魔法学校の首席様に魔法の応用力を褒められて嬉しいよ」


「私が兄様をからかってると思ってます?」


「少しだけね。でも出来の良い最愛の妹に褒められて俺は嬉しいよ」


「もう!最愛だなんて……」


 こんなやり取りが俺たち家族の日常だった。俺たち家族の談笑を交えた夕飯は続き、今日のルネの首席お祝いの為に王都に買い物へ行ったときの話へと移った。


「私は父様にこのチョーカーを買ってもらいました。魔法を使う補助にもなるそうですよ?」


 ルネは自分の首に付いている赤く輝く石があしらわれたチョーカーを見せる。


「そしてソレイアにもあるぞ。ほら。ソレイア用の腕輪だ。ルネとお揃いの形が良いとルネに駄々を捏ねられてな…こんな可愛い妹にそれだけ想って貰えるなんて幸せ者だな!」


 そう言って父さんは俺に腕輪を渡した。


 ルネのチョーカーと同じく魔法を補助する機能が付いているのだろう。ルネとは違った輝きを放つ青い石があしらわれていた。


「ふふっ。兄様とお揃いです」


 実の妹じゃなければ嫁に欲しいくらいのあざとさだった。


 話は変わるがと前置きして父さんが話始める。


「そういえばこれを買った店の近くで奇妙なことが起きていたなぁ」


「あぁ、あれのことですね」


 思い出したのか二人は身震いしていた。


「あれって何?そんなに身震いするほど怖いものだったの?」


「髪が白く変色して生きているのか死んでいるのか分からない状態の人が地面に転がっていたんです。魔法で確認できない状態にあったので助けることが出来なかったんです……ごめんなさい」


「ルネが魔法で無理だって判断したなら、殆どの人がお手上げの状態だと思うよ?だから気にする事はないさ」


「……ありがとうございます兄様」


「それでな、その状態の身体が何ヶ所でも発見されてるみたいだったんだ。それはもう王都中の衛兵達は大忙しといった様子だったぞ」


 なんだその怪奇現象は?急病か何かか?


「へぇそんなことがあったんだ。父さん達がそうならなくて良かったよ」


「本当にな。そんな状態になったら母さんと愛し合えないしな。わっはっはっ!」


 笑い事じゃないんだが……そんなことになったら俺は泣くぞ?本当だぞ?


 夕飯を食べ終えてみんなでごちそうさまをした。その後に風呂にも入ってもう寝るだけとなり、俺は自分の部屋のベットで横になっていた。


「兄様?入ってもいいですか?」


「鍵はかけてないから入れるよ」


 ガチャと扉が開かれてルネは部屋に入ってくる。


「今日の埋め合わせの取り立てに来ました」


「かわいい借金取りだな。で?どうして欲しいんだい?」


 考えた様に俯き少し時間が経ってからルネが恥ずかしそうに俺にお願いしてくる。


「……あ、あのですね?兄様とデートをしたいなと……」


「良いよ。次の休みの日でどうかな?」


「は、はい!楽しみにしています!」


 ふふっと嬉しそうにルネが笑う。そのまま身体で喜びを表現しながら扉に向かって歩いていく。


「じゃあ兄様。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 俺とお休みの挨拶を交わしたルネは俺の部屋を後にする。


 明日は騎士学校があるから俺も早く寝ないとな。


 俺は目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。

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