第843話 勇者の和解
「はっ、そんな事はどうでもいいんだよ!!要するにあの城に魔王が待ち構えているんだろ?なら、そいつをぶっ倒せば終わりだ。世界は平和に戻るんだろう?」
「そんな単純な話じゃないと思うが……」
「でも、まあ……歴史上に存在した魔王はもう剣の魔王だけです。魔王を倒せばもう二度とこの世界には魔王は蘇りませんよ」
死霊使いと言えども一度蘇らせた存在はいかなる方法を用いても二度とは蘇らず、歴代の魔王の中で残っているのはもうバッシュだけである。
バッシュさえ倒せばもう他に魔王はおらず、そもそも魔王たちを蘇らせた死霊使いは既に討ち果たされていた。それを考えるとバッシュを倒せば全てが終わるという話はあながち間違いではない。
「だが、剣の魔王の力は絶大……しかも奴の手には恐るべき魔剣が渡った」
「魔剣?」
「僕が覚えている限りだと、あの魔剣の名前は鬼王……所有者の魔力を実体化させる魔剣だ」
「魔力を……実体化?」
「私の魔爪術みたいに?」
実体化という言葉にレア達は疑問を抱くが、ここで「魔爪術」を扱えるネコミンが反応する。原理としては彼女の魔爪術も魔力を纏わせて実体化させるという点では共通点があった。
「鬼王は所有者の魔力を吸い上げる事で刃から魔力を生み出し、その魔力を実体化させる。魔力の量と密度によって魔力の刃の硬度や規模が変化する……ホムラの記憶ではそんな風に死霊使いから説明を受けていたはずだよ」
「なるほど……じゃあ、王城を破壊した時の漆黒の刃は奴の魔力で構成された物だったのか」
「刃、か……」
バッシュは王城を破壊する際に利用した「漆黒の刃」は魔力を実体化させた攻撃らしく、その威力は一刀で王城を両断して破壊する程の威力を誇る。もしもそれほどの力を戦闘で利用されたらレア達には分が悪い。
「バッシュの力は尋常ではない、始祖の魔王も厄介な存在だったが奴はそれに匹敵する力を持っておる……下手に大人数で仕掛ければ返り討ちに遭う可能性が高いじゃろう」
「そうなると人数を絞る必要があるか……」
「拙者達も行くでござる!!聖剣を持っている拙者達ならば対抗できるはずでござる!!」
「その通りだ、私達も行くぞ!!」
「そういう事なら私も……」
聖剣ならばバッシュに有効打を与えられるため、聖剣を所持している者達は名乗り上げる。だが、それに対してシュンはレアに振り返り、ある事を告げた。
「霧崎君……僕に聖剣を貸してくれないか?」
「……えっ?」
「記憶によると君の能力ならありとあらゆる物を作り出す事が出来るんだろう?頼む、僕に聖剣を貸してくれ!!」
「シュン!?」
「シュン君!?」
シュンはその場で土下座を行い、その行為にシゲルもヒナも戸惑う。他の者達も動揺を隠せず、特に勇者を崇拝する森の民の衝撃は大きかった。
今までのシュンならば人前で土下座するなど有り得ない行為だった。しかも相手が対抗心を抱いていたレアに対してである。だが、敵に身体を乗っ取られて記憶を取り戻したシュンはどうしてもこのままではいられない。
「頼む!!図々しい申し出というのは分かっているが、僕も君達と一緒に戦わせてくれ!!奴を倒さなければこの世界は滅ぼされるかもしれない!!なら僕は戦わないといけないんだ!!」
「それは……勇者としての責務か?」
「違う、勇者かどうかなんて関係ない!!僕のせいで大勢の人々に迷惑をかけた……なら、その償いをしなければならない。力を貸してくれないと言われても僕は戦う!!」
リルの言葉に対してシュンは強く否定し、自分が戦うのは勇者だからという理由ではなく、自分の犯した罪を償うために戦う事を伝える。
その言葉に対してレア達は顔を見合わせ、シュンは確かに変わったように見えた。今の彼ならば頼めると思い、信頼しても良いと判断し、頭を下げ続ける彼にレアは腕を差し伸べる。
「顔を上げなよ、シュン君」
「霧崎君……」
「へっ、やっとらしくなってきたじゃねか」
「一緒に頑張ろうね、シュン君!!」
レアの他にシゲルとヒナも笑いかけると、それに対してシュンは苦笑いを浮かべ、差し出された手を掴む。こうして四人の勇者が遂に集結し、残された敵と戦うための会議を行う。
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