第743話 ドラゴンスレイヤー

「ほれ、これでいいじゃろう」

「何をしたんですか?」

「ちょいとばかし精霊を送り込んで聞き取りやすくしただけじゃよ」

『ぐぐっ……おのれ、ここから出せ!!』

「あ、本当だ!!声が分かりやすくなった!!」



風の精霊魔法の応用なのか、カレハが掌を翳した途端に瓶の中の地の魔王の発音が聞き取りやすくなった。どのような原理なのかは不明だが、聞き取りやすくなった事で色々と話を聞けそうだった。



「これはいいですね、じゃあ色々と聞かせてもらいますよ」

『ふん、誰が貴様等なんぞに……』

「小さくなっても生意気ですね。水を注いでドロドロにされたいんですか?」

『や、止めろっ!!』

「いいですか?貴方はもう負けたんです。偉そうに地の魔王とか名乗ってますけど、今の貴方は何も出来ないんですよ。言っておきますけど、貴方を生かしているのは情報が手に入るかもしれないからです。何も知らなければここで倒しますよ」

「うわぁっ……」

「リリス、容赦ない」



リリスの言葉に他の者が引くが、確かに彼女の言う通りに地の魔王を倒さずに生かしておく理由など情報を会得する以外に理由はない。他の魔王と同様に地の魔王も大勢の人を苦しめた存在であり、このまま何も話さなければ浄化させるしかない。



「さあ、答えて貰いますよ。貴方を復活させたのは誰ですか?」

『ぐぐぐっ……』

「仕方ありませんね、クロミン!!ほら、あ〜ん!!」

「ぷる〜んっ」

『や、止めろぉっ!?』



水分の塊に等しいスライムに飲み込まれれば地の魔王も無事では済まず、クロミンが小瓶を飲み込む前に彼は観念したのか、自分が復活した際の経緯を話す。



『……我が復活を果たした時、目の前に立っていたのはまだ人間の子供だった。見た目は13か14ぐらいの少年だが、恐らくはあの身体は偽物だろう』

「偽物とはどういう意味だ?」

『言葉通りだ。奴の全身から瘴気(闇属性の魔力の異名)を感じられた。恐らくは人間の子供の身体を死霊人形として操っているんだろう』

「つまり、本体は別に存在すると……」



地の魔王が復活を果たした際、彼を蘇らせたのは予想通りというべきか巨人国に甲冑の巨人と共に訪れた少年だと判明する。だが、地の魔王の見立てではその少年も自分と同様に「死霊人形」の類だと推察した。


死霊人形を生み出せるのは死霊使いだけであり、これまでの魔王を復活させた存在が地の魔王も復活させたのは間違いない。但し、肝心の本体の方は地の魔王も見当がつかない。



『魔王と呼ばれた我等を蘇らせるとなると、死霊使いの力量も馬鹿には出来ん。恐らくはレベルも相当に高いのだろう』

「なるほど……よく分かりました。じゃあ、しばらくは生かしておきますね」

『は!?おい、何を……』



情報を聞き出すとリリスは自分の収納鞄の中に地の魔王を放り込み、改めて全員と向き合う。仮にも魔王と呼ばれた存在ををぞんざいに扱うリリスに何人かが冷や汗をかくが、リリスは気にせずに話しかける。



「これで敵の死霊使いの秘密が少し判明されましたね。この国に訪れた甲冑の巨人……いや、ギガンという存在の傍にいる少年を捕縛する必要があります」

「捕縛だと?捕まえるのか?」

「当然ですよ。その少年を倒しても正体が死霊人形なら意味はありません。それぐらいなら拘束して情報を引き出しましょう」

「そうか、死霊人形といっても意思があるなら情報を引き出せるのかもしれないのか……」



死霊使いが蘇らせた死霊人形は意思が存在し、実際に始祖の魔王や海の魔王も自我を保った状態で復活を果たしていた。死霊人形といっても蘇らせた死霊使いに絶対服従というわけでもないらしく、少年を捕まえれば死霊使いの本体の秘密も暴ける可能性は十分にあった。



「少年とギガンとやらを探しましょう。少し前までこの国にいたというのなら探し出せるかもしれません」

「それならば心当たりがある」

「ダイゴロウ殿!?それは本当か!?」



話を聞いていたダイゴロウはレイナ達の元へ近づくと、彼は少し前にアントンと少年のやり取りを離す。アントンが家臣に襲われかけた時、それを助けた少年にある情報を伝えた事を話す。



「奴等はアントン王子からこの国の秘宝「ドラゴンスレイヤー」の居場所を聞き出していた。ドラゴンスレイヤーはこの国に存在するホムラという名前の鉱山の麓にある祠に封印されている事を知ると、姿を消した」

「ドラゴンスレイヤー?それは確か、この国に伝わる伝説の大剣の事か!?」

「そうだ。勇者の聖剣にも匹敵する力を持つと言われる剣だ」



ダイゴロウの言葉に驚き、巨人国には伝説の大剣が封印されているという話はリル達も知っていたが、内容が内容だけにただの言い伝えだと思っていた。しかし、現実にドラゴンスレイヤーは実在し、その居場所を魔王軍は知ってしまった事が判明する――

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