第640話 他の勇者だったら良かったのに……
「――何と不甲斐ない!!二人も勇者がいながら、敗北したというのか!?」
「も、申し訳ございません!!」
帝国と王国の騎士団の模擬訓練が終了した後、皇帝は騎士団の団長を呼び寄せる。帝国の騎士団の中でも最強と呼ばれた「猛虎騎士団」が敗れたと知った皇帝はすぐに団長を呼び寄せ、敗北の理由を問い質す。
「よりにもよって解析の勇者を引きずり出す事も出来ず、二人の勇者の力を借りながら敗北するなど何事だ!!これでは我が国の騎士団がケモノ王国の騎士団に劣っている事を知らしめてしまっただけではないか!!」
「も、申し訳ありません……しかし……」
「何だ!?何か言い訳があるのか!?」
皇帝に対して騎士団長は非常に言いにくそうな表情を浮かべるが、このままでは敗北の責任は自分一人に負わされると考えた彼は意を決したように言い返す。
「この度の敗北は御二人の勇者様にも責任の一端があります。勇者シゲル様は部隊を引き連れながらも一人で突出し、そこの所を敵の部隊に狙われて囲まれて襲撃を受けてしまいました」
「むうっ……」
「勇者シュン様の方は本陣の防衛の際に私の指示を無視して襲われている騎士を優先して助けようとしたせいで、旗を守る事が出来ず……確かに白狼騎士団の騎士がここまで強い事は想定外でしたが、それでも此度の敗北は勇者様達が私の指示に従わなかった事も理由の一つです」
「……それは真か?」
「はい、この期に及んで嘘偽りは申しません」
騎士団長の言葉に皇帝は頭を抱え、今回の戦闘訓練は解析の勇者がどの程度の実力者なのかを確かめるために行った。勇者同士を戦わせる事で噂の勇者がどの程度の力を所有しているのかを見極めるために戦闘訓練を提案したのは帝国側だが、まさかよりにもよって解析の勇者が出る前に敗れたという事実に彼は頭を悩まされた。
皇帝は騎士団長の言葉をそのまま鵜呑みするわけではないが、勇者二人が戦闘の際に指示を受け付けずに勝手に戦ったという話はあり得る話だった。しかし、シゲルはともかくこれまでは大きな問題を起こした事がないシュンまでも指示に従わなかったという話に皇帝はため息を吐き出す。
「シュン殿は少々真っ直ぐ過ぎるな……いや、この場合は自分の力を過信し過ぎているのかもしれん。いかに勇者であろうと、全ての味方を守りながら戦う事など出来ん。それを理解してもらわねば……」
「皇帝陛下、お言葉ですが我々は勇者達を甘やかしすぎたのかもしれません。彼等が召喚されてから既に半年以上の月日が流れていますが、民衆の関心は解析の勇者にしか向けられていません」
「もう分かった……しばらくの間は謹慎を命じる。下がれ」
騎士団長の言葉に皇帝は耳が痛く、確かに召喚された4人の勇者の中で最も世間から注目を集めているのは解析の勇者であるレアだった。彼のこれまでの功績は帝国にも知れ渡っており、特に魔王軍を壊滅させた一件でレアの知名度は世界中に広まった。
「……こんな事ならば解析の勇者ではなく、他の勇者が国を出て行けば良かったのに……」
皇帝は無意識にそんな言葉を呟くと、この時に彼の傍に存在した兵士達は皇帝の言葉を耳にしてしまい、それが後に更なる問題を生む事になるなど、この時の皇帝は予想も出来なかった――
――同時刻、城の中に存在する医療室では怪我を負った茂と瞬がベッドの上に横たわり、二人は戦闘訓練の際に負傷したので身体を休ませていた。だが、茂の方は悔しそうな表情を浮かべるのに対し、瞬の方は顔を伏せた状態で座り込み、動く様子がない。
「……だあっ!!くそっ、負けちまった!!」
「……落ち着くんだ、茂」
「これが落ち着いてられるかよ!!結局、霧崎の奴と戦う前に終わっちまった!!くそ、あのオウソウとかいう野郎……しぶとすぎるんだよ!!」
茂は戦闘訓練の際に部隊を引き連れて白狼騎士団の本陣に向かったが、この時に彼はオウソウの部隊によって阻まれ、自分以外の味方は倒されてしまい、結局は一人で彼の部隊を相手にした。
最初の内は敵を全員倒す勢いで乗り込んだシゲルだったが、オウソウは一人で茂を相手に防戦一方に追い込まれながらも抑え込み、その間に彼の部下が他の騎士達を倒す。最終的には一人になった茂はオウソウと彼の部下によって取り囲まれ、結局は逃げ出す以外に方法はなかった。
「くそっ、男の喧嘩はタイマンだろうが!!それをあの野郎、これが戦略だと抜かして全員で掛かってきやがって……許せねえっ!!」
「仕方ないさ、喧嘩と実戦は違うんだ……」
「瞬、お前は悔しくないのかよ!?俺達、城の奴等に何て言われているのか知ってるのか!?霧崎と比べたら大した事がないなんて言われてるんだぜ!!」
「それは……本当かい?」
瞬は茂の言葉に聞いて顔を上げ、霧崎(レア)の名前が出た途端に反応した彼に茂は戸惑いながらも説明する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます