第606話 勢揃い

「それでは今からリリスから「赤煙草」という植物を受け取ってくれ!!これを使用すれがすぐに狼煙が上がり、他の者に異変を伝えることが出来るらしい!!」

「はいは~い、こちらを受け取ってください」

「な、何だこれは?」

「どうやって使うんですか?」



リリスは木箱を運んでくると、白狼騎士団の一人一人に布を巻きつけた枝を差し出す。この赤煙草は元々は森の民が育てている植物であり、煎じれば回復効果を高める薬茶が作り出せるが、燃やした場合は独特の煙を噴き出す性質を持つ。



「この赤煙草は名前の通り、こうして燃やすと赤色の煙を噴き出す。しかもこんなに小さいのに燃える時は一気に大量の煙を放出するので何かあればをこれを燃やして合図を送ってください」

「ほう、そんな植物があるのか……」

「ならば、これを利用して敵の反応を発見すれば煙を燃やせばいんですね?」

「いえいえ、地図製作で反応が表示されたからといっても魔王軍とは限りません。地図製作に表示されるのはあくまでも使用者に対して敵対心を抱く人物ですからね。普段から他人に恨みを買っている人がいれば気を付けて下さいね」

「なるほど、それならオウソウに表示される画面は赤色ばっかじゃねえの!?」

「殺されたいのか貴様!?」

「おいおい、止めとけよ!!こんな時に喧嘩するな馬鹿!!」



オウソウと同世代の団員が争うのを他の団員が引き留め、その様子を見てオウソウも最初の頃と比べたら随分と他の団員と馴染むようになった。また、赤煙草を手にしたのは白狼騎士団だけではなく、この国の大将軍であるライオネルも現れて赤煙草を受け取る。



「俺も貰うぞ!!」

「え、ライオネル大将軍!?戻ってたんですか!?」

「ああ、まさか非番の日にこんな事態に陥るとは……俺もすぐに城へ戻るべきだったが、城下町で火災の被害を受けた住民の救助を手伝っていたら、来るのが遅れてしまった」

「その赤煙草、我等にも頂けるか?」

「その声は……カレハ族長!?」



姿を現したのはライオネルだけではなく、飛行船にいるはずのカレハや彼女の配下の戦士達、そしてドワーフ達の姿もあった。彼女はレイナの顔を見かけると、不思議そうな表情を浮かべる。



「んんっ?お主、何処かで会った事があるかのう?私の名前を知っているという事は、勇者様に教わったのか?」

「え、いや……その……」



カレハの言葉にレイナは戸惑い、この姿ではカレハに会った事はなかったかと思うが、そんな彼女にカレハは笑みを浮かべて耳元に囁く。



「冗談です、勇者様。貴方の事情はもう知っております、その姿のままでお気になさらずに……」

「えっ……!?」

「ふふふ、長く生きたエルフは他の人間の魂を感じ取る力を得ます。最初に見た時から貴女が勇者様だと気づいておりましたよ。飛行船を守り切れなかった件、誠に申し訳ございません……しかし、森の民の名に懸けて必ずや魔王軍なる輩を見つけ出して滅ぼしてみせましょう」



レイナはカレハの言葉に驚くが、そんな彼にカレハは頷き、彼女と配下の戦士達も赤煙草を受け取る。これで王都内のレイナ達に協力してくれる者は殆ど集まったが、その中にティナだけは含まれていなかった。


途中までティナと行動を共にしていたハンゾウも彼女の行方は分からず、城下町で別れた後の彼女の行動は不明だった。無事である事を祈るが、今は魔王軍の幹部を見つけ出す事を優先し、リルの号令の元で全員が動き出す。



「では各自、準備が整い次第に出発してくれ!!敵を侮るな、どんな手段を講じるか分からない!!」

「万が一の場合を考えて行動するときは常に他の者と組んで調査をしてください!!地図製作の画面ばかりに気を取られ過ぎて足元を転ばないように気を付けて下さいね!!」

「我が里の戦士達よ、お前達も怪しい物を発見したらすぐに知らせるのだ。私はここで勇者殿と待つ!!」

『はっ!!』



白狼騎士団とエルフの戦士達は動きだし、王都内に潜伏していると思われる魔王軍の捜索のために出向く。その光景をレイナは心配した様子で眺めるが、リリスがそんな彼女の肩に手を置く。



「ここは皆さんに任せましょう。大丈夫、彼等だって成長しましたよ」

「うん、分かってる……でも、ティナは大丈夫かな」

「……信じましょう」



レイナの言葉にリリスは絶対に大丈夫だとは言い切れず、この状況下でティナが城に戻ってこない時点で何か起きたのは間違いない。だが、闇雲に探したところで事態は好転しない。


捜索は他の者に任せ、レイナ達はいつでも出撃できるように準備を整える必要があった。そんな時、ティナが家族のように可愛がっているシルの姿が見えない事に気付く。



「あれ、そういえばシルは?シルは何処に行ったの?」

「え?そういえば……誰か、シルを見ませんでしたか?」

「いや、見ていないが……サンちゃん、君が面倒を見てたんじゃないのかい?」

「きゅろっ?サンは知らない、クロミンは知ってる?」

「ぷるぷるっ(知らない)」



この状況下でレイナ達はティナが大切にしているシルが姿を消した事を知り、派遣した兵士達が合図を出す前に城内でシルの捜索を行う――

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