第594話 上級回復薬の効果

「ふはははっ!!これは素晴らしい、一気に若返った気分だ!!いや、本当に若返ったのか!!」



チイの力を吸い上げた事でツルギの怪我が治るのを確認すると、惜しむようにチイに視線を向けた。まさかこれほどの力を所有しているのならば簡単に殺すような真似はせず、少しずつ痛めつけて力を奪えば良かったかと考える。



「ふふふ、思っていたよりも楽しめたぞ。お主のお陰で改めてこの妖刀の素晴らしさを理解できた……勇者を斬れば儂は完全に若返る事が出来るだろう」



妖刀紅月は高レベルの人間を斬る事でより大きな効果を発揮する事を確認したツルギは王城に存在するはずの勇者を思い出す。戦場ではあれほど圧倒的な力を見せつけた勇者レアを切り伏せた時、彼は先ほど以上の力を手にして完全に若返る事が出来ると確信した。


最後に倒れているチイを一瞥し、確実に彼女には致命傷を与えていた。まだ辛うじて生きているようだが、この状態ではもう助からないと判断したツルギは王城へと向かう。



(妖刀で斬った以上、この娘の傷は治る事はない……)



紅月で斬られた傷口は回復薬の類では決して癒える事はなく、実際に彼に傷つけられたハンゾウは傷口が塞がずに危うく死にかけた。レイナの解析と文字変換の能力を利用してどうにか彼女は助かったが、この状況下でレイナが現れる可能性は限りなく低い。



(さあ、他の奴等が動く前に勇者の元へ向かわねば……!?)



チイを置いてツルギは王城へ向かおうとした時、彼の後方から物音が聞こえ、驚いたように振り返るとそこには傷口を抑えながらも立ち上がるチイの姿が存在した。



「馬鹿な!?貴様どうして動ける!?」

「……さ、さあな」



顔色を青くさせながらもチイは身体を起き上げると、ツルギは彼女が手に握りしめている硝子瓶に気付く。まさか回復薬の類で傷口を治療したのかと思ったが、普通の回復薬では紅月が生み出した傷が治る事はあり得ない。


紅月は相手を斬り付ける際に「呪詛」と呼ばれる闇の魔力を相手の身体に送り込み、その影響でどんな回復薬も効果を示さない。しかし、チイが所持していたのは市販の回復薬ではなく、リリスが研究を重ねて改良を加えた「上級回復薬」である。



(まさかこんな傷を一瞬で治せるとは……リリスには礼を言わねばな)



チイ自身もまさか上級回復薬の効果に驚き、リリスから受け取った上級回復薬は呪詛を浄化する効果を持つ事を知る。実は上級回復薬の素材の中には「聖水」などの特殊な液体も混ざっており、そのお陰で呪詛を解除して傷を治す事が出来るのはチイも知らなかった。


傷口さえ回復すればチイも再び戦えるため、ツルギと向かい合う。ツルギは自分の妖刀で傷つけた相手と二度も戦う事に苛立ちを抱き、次は確実に仕留めるために首を切り落とす事に決めた。



「おのれ、では次はお前の首を切り落としてやろう!!」

「ふっ……どうした、急に荒々しく言葉遣いになったな?」

「ぬかせ、小娘がっ!!」



ツルギはチイの挑発を聞いて怒りのままに駆け出し、肉体が少し若返った事で落ち着きも失ったかのように彼女に襲い掛かる。そんなツルギに対してチイはフラガラッハを構えようとした時、唐突にツルギの背後から近づく人影が存在した。



「辻斬り!!」

「ぐああっ!?」

「なっ!?」



完全にチイに意識を向けていたツルギは背後への警戒を怠っていた。その隙を吐いて唐突に何者かが彼の背中を斬り付けると、ツルギは背中を切られて怒り狂う。



「ぐうっ……だ、誰だっ!!」

「拙者でござるよ!!」

「ハンゾウ!?無事だったのか!!」



姿を現したのはチイと同様にフラガラッハを構えたハンゾウである事が判明し、彼女は何があったのか身体中が汚れた状態であった。ツルギは自分に切りかかった相手がハンゾウだと知って戸惑い、そんな彼にハンゾウは容赦なく剣を振り払う。



「決着の時でござる、ツルギ!!」

「き、貴様っ……!!」

「私を忘れてもらっては困るな!!」

「ぐおっ!?」



前後をハンゾウとチイに囲まれたツルギはどちらに対応するべきか悩み、その隙をついて二人は同時に駆け出す。同じ聖剣を持つ者同士が力を合わせ、剣聖であるツルギに立ち向かう。


チイはフラガラッハを握りしめた状態で空中の跳躍し、ハンゾウの方は逆に体勢を屈めた状態で接近すると、下から刃を繰り出す。ツルギは咄嗟に防ごうとしたが、上下から繰り出された攻撃を同時に防御する方法はなかった。



「和風牙!!」

「抜刀!!」

「ぐああああっ!?」



二人の聖剣の刃がツルギの身体を深々と切り付け、血飛沫が舞う。やがてツルギは膝を崩して倒れ込むと、妖刀を手放す。その妖刀に対して今度は油断せずにチイとハンゾウは聖剣を構えると、妖刀に向けて刃を振り下ろす。



「「兜割り!!」」

「ま、待て……止めろぉおおおっ……!?」



同時に冗談から振り下ろされた聖剣の刃が妖刀の刃を撃ち砕き、その光景を見ていたツルギは悲鳴を上げた。

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