第465話 ハンゾウの帰還

「なあ、リリス……それは何の薬を作ってるんだ?ここへ来てからずっとそうしているだろう?」

「ん?ああ、戦が始まるという事で私も特製の薬を作ってるんですよ」

「ほう、また新しい回復薬かい?」

「いえ、今回は毒薬ですね。あ、毒と言っても別に命を奪う類の奴じゃないですよ?」

「毒薬、ですか……」

「……拷問用?」



リリスの言葉に幕舎内の者達は冷や汗を流し、黙々と何を作っているのかと思えば平然と毒薬を制作しているという彼女の言葉に驚く。一方でリリスの方は特に他の人間の反応に気にした様子も見せず、黄色の液体が入った瓶を取り出す。



「完成しました!!リリス特製の痺れ薬です、この液体を身体に浴びた人間は巨人族だろうと半日は動けなくなりますよ。しかも即効性で皮膚に触れるだけでも動かなくなる優れものです!!」

「また、恐ろしい薬を作り出している」

「リリス……お前の薬剤師としての腕は認めるが、そんな危険な毒薬をこんな場所で作るな!!」

「いえいえ、これは確かに毒薬ではありますがレイナさんのために作ったんですよ」

「え?俺のために?」



レイナはリリスから毒薬を渡され、硝子瓶に満たされた液体を見て不気味に思う。リリスがどうして即効性の痺れ薬を作り出したかというと、彼女はレイナが魔王軍の「グノズ」に襲われた時に毒を仕込まれた際、悪食の固有スキルのお陰で助かった話を参考に毒薬を作り出したという。



「少し前にレイナさんは魔王軍の幹部から毒を受けた時、悪食のお陰で助かったといってましたよね?つまり、今現在のレイナさんはあらゆる毒物を栄養、つまりはエネルギーに変換する肉体になっているはずです」

「うん、そうだけど……それがこの毒薬と何か関係があるの?」

「大ありですよ、それは確かに毒薬ですが今のレイナさんにとっては栄養剤みたいなものです。戦闘の最中に敵に振りかければ毒薬の効果を与えられますし、もしも疲れた時はそれを飲めば体力を取り戻せるはずです」

「あ、言われてみれば……なるほど、確かに俺向きの毒薬だな」

「……自分向きの毒薬というのも凄い言葉だと思う」



以前にレイナがグノズから毒を仕込まれた際、悪食のお陰でレイナの肉体に入り込んだ毒素は栄養分へと変換し、逆に身体の調子が良くなった。リリスの予想では毒が強いほどに体内に入り込んだ際に大きな栄養へと変化され、レイナの体力を一気に取り戻すだろうと予想していた。


あくまでも栄養に変化するだけで会って毒薬が回復薬の効果を生み出すとは思えないが、ゆっくりと身体を休められない状況において飲用するだけで身体を回復させる効果を持つ薬を持っていればレイナとしても安心して戦える。リリスなりの気遣いで作り出した薬であると判断し、レイナは有難く受け取ろうとした時、幕舎が開かれて中に傷だらけの少女が黒装束の倒れ込む。



「うっ……」

「誰だ!?勝手に中に入るなど何を考えて……お前はっ!?」

「ハンゾウ!!無事だったのか!?」

「きゅろっ!?ハンゾ、怪我してる!!」

「ぷるぷるっ!!(大変!!)」



幕舎の中に入ってきたのは傷だらけのハンゾウだと気づくと、慌てて全員が駆けつけて彼女の様子を伺う。この際にリル達は彼女が左手を切り落とされている事に気付き、顔色を青くした。



「ハンゾウ、目を覚ますんだ!!ハンゾウ!!」

「……駄目ですね、完全に気絶してます。どうやらここまで辿り着いた事で気が抜けて意識が飛んだようです」

「冷静に分析している場合か!!ネコミン、回復魔法を!!リリスも回復薬を飲ませろ!!」

「……もうやってる」



倒れたハンゾウにネコミンは回復魔法を施し、リリスも携帯している回復薬を無理やりに口元に含ませる。しかし、どういう事なのか左手の傷口だけは一向に治る様子がなく、傷口の方も火傷で塞いでいる事が判明した。


左手以外の怪我は治療する事が出来たが、左手の傷だけは一向に治る様子がなく、回復魔法も回復薬を注いでても一向に変化は見られない。それによくよく観察すると傷口の箇所が若干黒ずんでおり、それを確認したリリスは目を見開く。



「これは……そういう事でしたか、どうやら呪いの類を掛けられているようですね」

「呪い!?呪詛か!?」

「ええ、恐らくはツルギという老人が所持していた魔剣の能力なんでしょう」



ハンゾウの報告書に記されていた魔剣の事を思い出したリリスは彼女の傷口がツルギに斬り付けられた怪我だと見抜き、ネコミンの回復魔法では「呪詛」は浄化出来ないと判断した彼女はレイナに振り返る。



「レイナさん、ハンゾウを治してください!!」

「え?あ、分かった!!」

「何?レイナは浄化魔法を使えるのか?」

「説明は後です!!いいから早くっ!!」

「……解析」



レイナはハンゾウに解析の能力を発動させ、彼女の詳細画面を開く。その結果、状態の項目に「呪詛」という文字が記されている事に気付き、すぐに文字変換の能力を発動させて「健康」という文字へと作り変える。

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