第364話 レアの仕事は……

「これから……どうなるんでしょうか?」

「……恐らく、しばらくの間は膠着状態に陥るだろう」

「膠着?」

「ガーム将軍は忠義の士だ、はっきり言ってあの方が王国に反乱を起こすとは思えない。きっと、あちからから何らかの連絡を寄越すだろう」

「じゃあ、リルさんはガーム将軍が本当に反乱を起こしたとは思ってないんですか?」

「そうなるかな……だが、絶対にあり得ないとは言い切れない」



リルの推測では今回の一件はガームとガオの仕業とは思えず、特にガームが国王を暗殺したなど信じられなかった。彼は忠義心の塊と言ってもよいほどの忠臣であり、ケモノ王国に仕える将軍である。


元々は大将軍を任せられていた時期も存在し、国王も彼に対しては絶対の信頼を寄せていた。リルもガームの事は弟の件で良好的な関係を築いていたとはいえないが、それでも尊敬に値する人物だと思っていた。



「ガオの奴が国王を殺したというのもあり得ない。家臣たちは先日の一件でガオが凶行に走ったと思っている奴もいるようだが、ガオは本当に国王の事を愛していた……私以上にな」

「リルさん……」

「正直、今でも信じられない……父上が死んだなんて実感が湧かないよ。実は私の器を確かめるために父上が死んだふりをしたんじゃないかと思ったぐらいだ」



リルとしても育ての親である国王が亡くなった事に悲しみを抱くが、彼女の立場を考えれば悲しみに暮れる事も許されない。国王が死んだことが知れ渡れば民衆は混乱し、他の国々との関係にも影響が出る。


特に警戒するべきはヒトノ帝国であり、この混乱に乗じてヒトノ帝国が動き出す可能性もある。しかもケモノ王国はヒトノ帝国で脱走したレアの存在があるため、何を仕出かすのか分からない。



「……当面の間はガーム将軍が動く事はないだろう。あの方が本当に国王様の暗殺に関わっていなければきっと軍勢を動かす事はない」

「けど、もしも本当に軍勢を動かした場合は……」

「……この国は破滅するだろう」



仮にガームが10万の軍勢を動かして王都へ攻め寄せてきた場合、残念ながら王都の軍勢では持ちこたえきれない。各地に既に援軍の要請を行っているが、それでも援軍が到着するまでは時間が掛かるだろう。



(希望があるとすれば、ここにはレイナ君……いや、レア君がいる。彼の能力が頼りになるだろう)



もしも10万の軍勢が押し寄せてきた場合、対抗できる戦力があるとすれば「勇者」であるレアだけが頼りとなる。レアが自分の持つ能力を躊躇なく発揮すれば、100万の軍勢だろうと対処は出来る。


例えば聖剣を量産して兵士達に与え、その力を発揮させたり、あるいは複数の竜種を支配下に収めて解き放つ。それだけで10万だろうが100万の兵士だろうと蹴散らせるだろう。問題があるとすればそんな事をレアが協力するかどうかだった。



(レア君を戦争の道具として利用したくはない……しかし、もしも攻め込まれた時は他に方法がない)



リルとしてもレアを戦争に利用するのは避けたいが、現状ではガームが軍勢を率いて攻め込んできたときの対抗戦力は「勇者」であるレアしかいない。しかし、勇者という存在を大々的に知れ渡ればヒトノ帝国も黙ってはいないだろう。



(レア君を保護している事をヒトノ帝国に知られれば何を仕出かすか分からない。勇者を返却するように言い張るかもしれないな。自分から追い出しておいて虫のいい事を言うだろう)



ヒトノ帝国から追放されたレアだが、実際の所は彼を追放したのはウサン大臣である。仮にヒトノ帝国がレアの存在を知り、彼の価値を知ってケモノ王国に対して勇者を返せと言い張るかもしれない。


それどころか他の国々もヒトノ帝国以外に勇者を抱えた国が現れれば黙ってはいられず、軍隊を動かして勇者を奪おうとする国も現れるかもしれない。実際に過去にも勇者を巡って争い合った国々も存在し、リルはレアをどのように守るのかを考えた。



(当面の間、レア君を利用する輩が現れる前に身を隠させる必要があるかもしれない。しかし、どうするべきか……待てよ?)



リルは色々と考えた結果、ここである妙案を思いつく。このままレアを王城内に匿っていたら家臣たちが接触を図ろうとするかもしれず、それぐらいならばいっその事、レアを城の外へ解放するべきかと考える。



「レア君、ちょっと仕事を頼みたいんだが……頼めるか?」

「仕事、ですか?」

「ああ、君も興味がある仕事だよ。そうだな、サンとクロミンも連れて行っていい」

「二人も一緒に?」

「ちょっと待ってくれ、紹介状を用意するから……誰か来てくれ!!」



レアはリルが自分にどんな仕事を頼むつもりなのかと戸惑うと、彼女は即座に使用人を呼び寄せ、羊皮紙を用意させる。そして何事か文章を書き込むと、自分の拇印を押してレアに差し出す。



「この紹介状を城下町の冒険者ギルドに提出してくれ」

「冒険者ギルド?」

「ああ、そうすれば君は晴れて冒険者だ」

「ええっ!?」



リルのまさかの発言にレアは驚き、どうしてこの状況で自分を冒険者ギルドに送り込むのかと戸惑うと、リルは説明を行う。

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