第362話 王位継承

――久々に男の姿へと戻り、服装も着替えたレアはリルと共に廊下を歩く。目指す場所は玉座の間だが、到着した時には既に大勢の家臣と将軍が待ち構えていた。彼等はリルが姿を現すと礼を行い、その中でも新たに宰相に就任した男性がリルの前に歩み寄る。



「リルル王女様、お待ちしておりました」

「貴方は……ワン殿でしたね」

「はい、ワン・チャンと申します」

「わんちゃん……」



ワンと名乗った男性は年齢は50代ほどで身長はリルよりも頭一つ分小さく、人懐っこい笑顔を浮かべる。この人物は宰相になる前から国王の信頼が厚く、優秀な文官だった。


ギャンが宰相の任を解かれてからすぐに国王は彼を宰相に任命したのは知っているが、リルはあまり関係を持たなかった相手である。最も彼の噂はよく聞いていたのでリルも宰相に任せる人物は彼以外にはいないと思い、まずは軽く挨拶を行うと玉座の間に視線を向ける。



「父上は……本当にもういないのだな」

「はい、残念ながら……」



リルの呟きにワンは頷き、目元を潤ませる。彼としても偉大な国王の死に涙を流さずにはいられず、それでも今は悲しみに耽る事は許されない。今のケモノ王国は非常に不安定な状況に陥っていた。



「リルル王女様!!国王様が亡き今、この国を引き継げるのは貴女様だけです!!」

「どうか国王様の遺志を継ぎ、貴女がこの国の初代女王となって下さい!!」

「我々家臣一同、リルル様が王の座に就く事を願っています!!」

「…………」



広間に存在する殆どの家臣がリルが王位に就く事を望み、現実的に考えても先王がリルルを次の国王に指定していた事は既に城内の人間には知れ渡っていた。実際に国王は体長を崩す前にリルを呼び出すように命じ、謹慎を言い渡しているガオには何の連絡も与えなかった。この事から国王は次の王位をリルに継承させようとしている事は明白だった。


リルも自分が国王になるために功績を上げ、いずれは国王から王位を受け継ぐ覚悟と決意は抱いていた。しかし、こうも早く自分が王位を継ぐ時が着た事に戸惑いを隠せず、本当にこのまま王位継承をするべきなのかを悩む。



(この玉座に座れば私は国王になれる……だが、それで本当にいいのか?)



このままなし崩し的に玉座に座る事にリルは葛藤し、本当に今ここで王位を継ぐ事を宣言してもいいのかと悩む。そんなリルに対して「レア」は彼女の気持ちを読み取り、ワン宰相に話しかける。



「あの…ワン宰相、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

「おお、貴方が噂の勇者殿ですか。こうしてまともに顔を合わせるのは初めてですな、何か私に聞きたいことでもあるのですか?」

「えっと……ガーム将軍とガオ王子は今はどうなったんですか?」

「……そうだな、確かにそちらを確認する方が先だ」



レアの言葉を聞いてリルはワンに振り返り、今は自分が王位を継ぐべきかどうかよりも逃走した二人の事が気にかかり、ワンに状況を問う。ワンは二人の質問に険しい表情を浮かべて説明を行う。



「現在、ライオネル大将軍が王都の守備軍を率いて追跡を行っていますが、恐らくはガーム将軍はガオ王子を引き連れ、自分の領地へと引き返したと考えられます」

「やはりか……」

「王女様!!すぐに各領地の貴族に兵士を派遣させるように指示を出しましょう!!ガーム将軍はガオ王子と結託し、国王様を暗殺された疑いがあります!!もしもガーム将軍が敵に回られたというのであればガーム将軍の配下10万の兵士が反乱を引き起こす可能性があります!!」

「長年の間、国王様に仕え続けた身でありながらガオ王子と組んで暗殺を企てるなど許せません!!一刻も早く、兵を集めて討つべきです!!」

「私も賛成です!!」

「私も同じ意見です!!」



大臣と将軍の全員が今回の国王の暗殺事件はガームとガオの仕業だと考え、国王は臣下にどれほど慕われていたのかをよく思い知らされる。全員が国王の暗殺犯の可能性が高いガームとガオを一刻も早く捉えて処刑するべきだと主張する。


しかし、ガオとガームの性格をよく知っているリルは本当に二人が手を組んで国王を暗殺したとは思えなかった。今回の件には何か裏があると思い、仮に本当に二人が国王の暗殺を計画していたとしても理由が分からなければリルも納得できなかった。



「……皆の意見は良く分かった。今後の方針はまずはガオとガームの動向を探り、二人がどう動くのかを見極める必要がある。もしもガーム将軍がガオと共に反乱を企てようとしている場合、私は次期国王として二人を断罪しなければならない」

『おおっ!!』



はっきりと自分の事を次期国王と告げたリルに対して家臣は表情を明るくさせ、彼女に国王の後を受け継ぐ意思がある事を知って安心する。だが、リルは続けて今回の件が解決するまでは自分は王位に就かない事を示した。

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