第361話 死因の疑問
「兵士の話によると国王様は最初に発見された時は壁に背中を預けた状態で腹部を長剣で貫かれていた状態だったそうです。その時に使用された剣が黒狼騎士団が所持していた漆黒に塗りつぶされた長剣だったそうです」
「……黒狼騎士団の装備は全て回収したはずだが」
「容疑者のガオ王子の部屋を確認したところ、黒狼騎士団を結成時に作り出した武器が何品か確認されました。剣以外にも色々な道具がありましたよ」
「では、本当にガオ王子が国王様を殺したのでござるか!?」
「ガオ……!!」
リルはガオが国王を殺したかもしれないという話に歯を食いしばり、その様子を見たレイナ達は何も声を掛けられない。しかし、リリスだけは報告書を前にして考え込む素振りを行い、その様子に気づいたリルが疑問を抱く。
「リリス、何か気になる事があるのか?」
「……国王様の死体を確認したところ、少し気になる事がありました」
「気になる事?」
「城内の人間(獣人)の話によると、国王様は謎の病を患い、倒れたと言っています。実際に死体に関しても異常なまでに痩せ細っていました。でも、それだけなんですよ」
「それだけ?それだけとはどういう事だ?」
「国王様の身体を解剖した結果、痩せ細ったという点以外は特に身体に異変はありません。つまり、病の原因が突き止められなかったんです」
リリスが気になるのは国王の死体を解剖した結果、彼が侵されたという病の原因が突き止められず、そもそも肉体の方は痩せ細っていたという点を除けば特におかしな点はなかったという。
唐突に国王一人だけが病に襲われたという話を聞いていたリリスは不思議に思い、これは何者かが国王のみに毒を盛ったのではないかと考えていた。しかし、身体に毒を仕込めば何らかの痕跡が残っていてもおかしくはないのだが、何故か肉体の方は異様に痩せ細っているという点以外は特に毒物も何も仕込まれた形跡は見つからなかった。
「私の見立てでは何者かが国王様を病に見せかけ、毒殺を試みようとしているのではないかと考えていました。しかし、死体を解剖した結果、国王様の死因は毒殺ではありません」
「では、本当に国王様は謎の病に侵されたのでござるか!?」
「はい。専属治癒魔導士のユダンさんの診療記録を確認しましたが、特に不審な点はありません。ユダンさんも謎の病の原因を突き止めようと色々と頑張っていたそうですが、何故かどんな薬を処方しても効果が現れず、日に日に国王様の容態が悪化して手の施しようがなかったみたいです」
「診療記録?そのユダンさんに話は聞いていないの?」
「できればそうしたいんですけどね、何故かそのユダンさんもガーム将軍とガオ王子に殺された事になってるんですよ」
国王の死因に関してリリスは色々と気になるが、生憎と彼の治療を行っていたユダンは死亡しているため、彼の診療記録だけしか当てにならなかった。レイナの「解析」の能力も生憎と死人には通じず、仮に国王の遺体をレイナが調べても意味はない。
父親の病の原因が分からないという話にリルは考え込み、今一度冷静になって彼女はリリスの話を思い返す。父親の死因が本当に剣を突き刺された事で死亡したのか、気になった彼女はリリスに調査を命じる。
「……リリス、詳しく国王が病に侵された時の状況を城内の人間に聞き込みしてくれ。他の者たちも手が空いたときはリリスの協力を頼む、私は今から王都内の臣下を呼び集め、とりあえずはガーム将軍とガオの対応策を話し合う」
「それなら拙者もリリス殿に付き合うでござる。こう見えても毒物の類なら詳しいでござるよ、毒物を死体に残さずに殺す方法もあるかもしれないでござる」
「そうですね、じゃあハンゾウは私と行動を共にして下さい」
「では私はリル様の補佐を」
「私はサンとクロミンの面倒を見てる」
「きゅろろっ、ネコミンが遊んでくれる?」
「ぷるぷるっ(やったぜ)」
「なら俺は……」
それぞれが自分の役目を決める中、レイナはどうするべきか悩む。リリスとハンゾウの調査を手伝うべきか、それともチイと一緒にリルの補佐を行うか、悩んでいるとリルが声をかける。
「悪いが、レイナ君は元の姿に戻って私の傍に居て欲しい。この状況では恐らく、勇者である君の力が一番頼りになるからな」
「え?あ、はい。分かりました」
「申し訳ないでござる、拙者もリリス殿の手伝いをする以上はレア殿の姿に変装して過ごすのは難しいでござる」
「久々に男の姿に戻れてよかったじゃないですか。じゃあ、私達はこれで失礼します」
ハンゾウがリリスの補佐役に回った以上は勇者レアの変装を行えず、しばらくの間はレイナは元の「レア」の姿に戻れる事が決まる。リルは二人が立ち去ったのを確認すると、まずはチイに城内の家臣を呼び集めるように命じた。
「チイ、すぐに玉座の間にて城内の将軍と大臣を集めてきてくれ。レイナ君も準備が整い次第、玉座の間に来てくれ」
「分かりました!!」
「はい、すぐに向かいます」
リルの言葉にチイは即座に行動を起こし、レイナの方も男性物の服を取り出し、久々に男の姿に戻れる事に嬉しく思うが、状況が状況のために心の底から喜ぶ事が出来なかった。
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