第358話 謎の襲撃者

「貴様っ!!何者だっ!?」

「ひいっ!?」



ガームは自分に向かってくる黒装束の人物に対して腰の剣を抜こうとしたが、その前に相手の方がクナイを構えると、ガームの剣を引き抜こうとした右手に向けて放つ。


結果から言えばガームが剣を抜く前に彼の右手の甲にクナイが突き刺さり、痛みで剣を抜く事が出来なかった。苦痛の表情を浮かべるガームに対して黒装束の人物は腰に差していた短刀を引き抜く。



「死ねっ!!」

「ぐっ……舐めるなぁっ!!」

「があっ!?」



だが、相手が次の攻撃に移る前にガームは右足を突き出し、襲撃者を蹴り飛ばす。元は大将軍を務めていた事もあるガームの膂力はライオネルにも劣らず、吹き飛ばされた襲撃者は床に転がり込み、それでも気絶には至らなかったのかすぐに起き上がる。


ガームは右手に突き刺さったクナイを引き抜き、その武器を確認して驚いた表情を浮かべる。そして敵の正体を見抜いたとばかりに告げた。



「まさか……貴様、忍びか!!

「し、しのび?」

「……このクナイを扱えるのは和国の暗殺者、忍者や忍びと呼ばれる人間以外には扱えんはずだ。だが、何故この俺を襲う!?答えろ!!」

「……御免!!」



襲撃者はガームの言葉に答えもせず、そのまま窓を破って外へと抜け出す。ガームはそれを見て慌てて破壊された窓の元へ近づくが、既に忍者の姿は消えてしまい、それを確認したガームはクナイを握りしめる。



「くそぉっ!!貴様かぁっ!!国王を殺したのは、貴様かぁあああっ!!」

「お、叔父上……!!」

「な、何の騒ぎだ!?」

「あ、あれは……ガーム将軍!?どうしてここに!?」



騒動を聞きつけたのか兵士が通路に駆け寄ると、倒れているユダンとその傍に存在するガオ、そしてクナイを握りしめたガームを見て兵士達は戸惑う。いったい何が起きたのかと混乱する中、兵士の隊長がガームに近付く。



「が、ガーム将軍……これはいったい何事ですか?いや、それよりもどうして将軍がここに……」

「お前は……近衛隊長か、貴様何をしていた!!賊が現れたぞ!!」

「賊!?そんな馬鹿なっ……ど、何処にいるのですか!?」

「た、大変です!!」



国王の近衛兵の隊長だと気づいたガームは襲撃者の侵入を許した事に叱りつけようとしたが、即座に別の兵士が駆けつけ、彼は顔色を青くしながら跪く。


尋常ではない様子の兵士を見てガームと近衛隊長は驚き、何事が起きたのかと問い質す前に兵士は大粒の涙を流しながら報告した。



「こ、国王様が……国王様がお亡くなりに……!!」

「な、何だと!?」

「それは……」



どうやらこちらの兵士は国王の部屋に入り、国王が死んだことを確認したらしく、近衛隊長は動揺したように目を見開く。一方でガームの方は事前にユダンから話を聞いていたので取り乱す様子もなく、動揺するのも仕方がない事だが今は逃げた襲撃者を追うように指示を出そうとしたとき、兵士が予想外の事を言い出す。



「国王様の遺体には……剣が突き刺さっていました!!あ、暗殺です!!」

「何だと!?」

「馬鹿なっ!?」

「ど、どういう意味だ!?」



兵士の言葉に今度は近衛隊長だけではなく、ガオもガームも驚き、ユダンから彼等は国王の死んだ理由は病のせいだと聞いていた。しかもユダンは国王から遺言も受けていたはずであり、剣で殺されたなどと一言も言っていない。


いったいどういう事なのかと現れた兵士に近衛隊長とガームは近づくと、兵士は涙声を流しながら国王の遺体の状態を説明する。



「わ、私は見ました……国王様の部屋から奇妙な物音が聞こえ、何事かあったのかと尋ねました。しかし、部屋から返事はなく、音が聞こえなくなった事で不安を覚えたので私は扉を開いたときには……国王様が壁際に倒れ、胸元に剣が突き刺さっていました……!!」

「ば、馬鹿なっ……!!」

「だ、誰だ!!誰がそんな事をした!!」



国王が殺されていたと証言する兵士にガームは狼狽し、近衛隊長は涙を流しながらも兵士の首を掴んで壁に押し付けると、彼は苦し気な表情を浮かべながらも答えた。



「わ、分かりません……私が来た時には既に部屋の中には誰もおらず、窓が開かれた状態でした……!!で、ですが、国王様の遺体に刺さっていた剣は……」

「剣がどうした!?」

「……が、ガオ王子様が制作させた黒狼騎士団の紋章が刻まれていました。刃も、柄も、全体が黒く染められていました」

「なん、だと……」

「そ、そんな馬鹿なっ!?嘘だ、あり得ない!!」



兵士の言葉に誰もがガオに視線を向け、彼は顔色を青くさせて混乱を隠せず、必死に否定する。しかし、その態度が逆に怪しく感じられ、兵士の言葉が真実ならば国王を殺した武器はガオが制作させた黒狼騎士団の騎士の装備となる。


ガオは助けを求めるように周囲に視線を向けるが、兵士達も近衛隊長も彼に対して警戒心を抱き、一方でガームはこのままではまずいと判断して甥の元へ向かう。

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