第317話 火竜の服従
「仕方がなかったとはいえ、やはり武人の身としては武器を壊してしまったのは辛いな……」
「ですがリル様、これでムラマサの件は解決します。どうか気落ちしないでください」
「仕方ない、胸に挟んで慰めてあげる……レイナが」
「え、俺が!?」
「ふむ、それも悪くはないが……今は落ち込んでいる場合じゃない、火竜の死体の素材の回収を急がないとな。あまりに放置していると大迷宮に吸収されてしまうからな」
リルは残念そうに刃が砕けたムラマサを持ち上げると、鞄の中に回収を行う。ちなみに砕けた刀身の方も念のためにレイナは回収を行い、何かに使えるかもしれないので持って帰る事にした。
レイナ達は倒した火竜の前に移動しようとすると、ここで火竜の幼体が気絶している事を思い出す。先ほどの攻防でチイが両目を傷つけたので視界は潰されているが、もしも目覚めて親の死を知った時、襲い掛かってくる恐れがある。
「リル様、火竜の子供はどうしますか?やはり、今のうちに始末しますか?」
「そうだな。子供とはいえ、竜種である事は間違いない。倒せばいい素材になるだろうが……」
「えっ……殺しちゃうんですか?」
「ちょっとかわいそう……でも、放っておくわけにはいかない」
気絶している火竜の幼体を前にしてどのように対処すべきか話し合うリル達にレイナは戸惑い、確かに今は子供とはいえ、成長すればいずれ大きな脅威となる存在を見逃すわけにはいかない。
今のところはこの火山にはレイナ達が倒した火竜と、その子供の火竜しか確認されていない。もしかしたらこの火竜が最後の生き残りの火竜かもしれず、倒せばしばらくの間は火山を安全に探索できる可能性もある。
「やっぱり、殺すしかありませんか?」
「いや……それも問題がある。前にも話したが、大迷宮では魔物が絶滅する事はない。仮にどれだけの魔物を倒そうと何らかの形で復活を果たしてしまう事は言っただろう?」
「あ、そうか。なら、ここで火竜を殺してもまた復活するかもしれないんですね」
少し前にレイナは大迷宮で魔物が復活を果たす話を聞いており、ここで火竜や火竜の子供を殺したところでいずれ復活する可能性は十分にあった。なので今ここで火竜の幼体を殺しても親と共に復活を果たすかもしれない。
「ですが、復活するかもしれないといっても確証はありません。今すぐに火竜が蘇るとも限りませんし、ここは素材の確保のために殺しておくべきでは……」
「チイの意見が最もだ。だが、それよりも私は良い案を思いついた。レイナ君、火竜をペットに加える気はあるかい?」
「え?」
「なっ……まさか、クロミンやサンの時のように味方にひきいれるつもりですか!?」
「おおっ……火竜を飼うの?」
リルの言葉に3人は驚き、とんでもない事を言い出したかに思えたが、確かに悪くない案だった。ここで火竜を殺したところで復活を果たして敵になるぐらいならば、レイナの能力で火竜を味方にしておく方が都合がいい。
親の方は既に殺してしまったのでどうしようもないが、子供だけでも味方にしていれば襲い掛かってくる恐れはなく、わざわざ殺す必要はない。それに子供といっても竜種が味方になるのならば心強いが、ここで問題がある事をチイが指摘する。
「ですがリル様、火竜を味方にするとしても国王様に何と説明するのですか?災害の象徴でもある竜種を味方にしたと知られれば大きな騒ぎになります。それともクロミンの時のように別の魔物に変化させるのですか?」
「いや、それも悪くはないが……私達はしばらくの間はこの火山の探索を行う予定だ。だから火竜にはここに留まってもらい、探索の時のみに協力してもらおう」
「え?一緒に連れて行かないんですか?」
「ああ、この火竜にとっても外の世界では環境が良いとは言い切れないだろう。火竜が最も育ちやすい場所は火山だ。だが、生憎とケモノ王国の領地内には火山は殆ど存在しない。それにこんな子供では戦力はあまり期待できない、無理に連れ出す事は出来ないよ」
クロミンの場合は元々の姿が成体の牙竜亜種に対し、こちらの火竜はまだ幼子で仮に外の世界に連れ出しても戦力という点では不安が多い。それならばいっそのこと、火竜を味方にした後はこの大迷宮に残した方がいいというのがリルの考えだった。
火竜の幼体を殺さず、味方として従えて火山に残すという提案にレイナは反対せず、親を失ってこれから一人で生きていく事を不憫に思ったレイナはついでに火竜の怪我を直す事にした。
「解析……よし、これで大丈夫のはずです」
「シャアッ……?」
解析を発動させて火竜の幼体の詳細画面を開き、状態の項目を最初に「健康」へと変化させた後、傷を治療する。その後に「服従」という文字に書き換えた事によって火竜は目を覚ますと、不思議そうに首を見渡す。
クロミンの時と同様に獰猛な竜種といえど、服従させれば主人に歯向かう事は出来ず、目覚めた火竜はレイナに気づくと身体を置き上げてお辞儀のように頭を下げる。その様子を見てレイナは安心すると、火竜の頭を撫でた。
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