第304話 ムラマサの変化
「……拒否反応は起きないな、聖剣と同じく魔剣は持ち主以外が扱うと災いが起きるというが、やはり持ち主はもう亡くなっているか」
「あ、そういえばフラガラッハの時は確かリルさんは……」
「拒否反応が起きて本当なら二度と治らないぐらいの火傷を負ったね。レイナ君のお陰で助かったが、あの時は苦労したよ。君にも迷惑をかけて本当に申し訳ないと思っている」
最初にレイナと出会ったことを思い出してリルは苦笑いを浮かべると、彼女は刀を振って手応えを確かめる。今のところは特に反応らしき反応はなく、このまま武器として扱えそうだった。
試しに彼女は近くに存在する岩に視線を向け、ムラマサを構える。そして力を込めずに無造作に剣を振り払った瞬間、ムラマサの刃は見事に岩を切断してしまう。まるで豆腐を切るかのような感覚で岩を真っ二つに切り裂いたリルは目を見開く。
「こ、これは……」
「なんという切れ味!?せ、拙者の持っているフラガラッハでもそれほどの切れ味はないでござるよ!?」
「凄い……まるでアスカロンみたいだ」
「おおっ……ちょうどいい具合の椅子になった」
「座りやすいっ!!」
「ぷるるんっ(わ~いっ)」
リルが切り裂いた岩を見てハンゾウとレイナは驚き、その一方でちょうどいい具合に椅子ぐらいの大きさになった岩の上にネコミンとサンが座り込み、クロミンはサンの膝枕に乗り込む。
ムラマサの切れ味にリルは驚く一方、同時に先ほどまで感じていたムラマサの邪気がなくなっている事に気づいた。どうやらレイナが能力を変換させた事でムラマサに帯びていた闇属性の魔力が消え去ったようであり、その代わりに「諸刃」の効果によって限界近くまで能力が強化されている様子だった。
「これは……素晴らしい名刀だな。この刀ならば竜種が相手でも渡り合えそうだ」
「それは良かったんですけど、でもやっぱり壊すしかないんですよね」
「仕方ないでござるな、禍々しさは消えたとはいえ、ムラマサはこの世に存在する事は許されない武器でござる」
「ああ……だが、それでもこのまま壊すのは惜しい」
岩をも簡単に切断する切れ味を誇るムラマサを見てリルは目つきを鋭くさせ、いずれは破壊しなければならないのは分かっているが、これほどの武器を使用せずに壊すのは気が引けた。
「……とりあえずは第四階層の攻略の際はこのムラマサは僕に使わせてくれ。これだけの切れ味なら第四階層の魔物が相手でも十分に通用しそうだ」
「本当に大丈夫ですか?」
「ああ、特に使ってみても問題はない。この魔剣は僕が預かるよ」
「少し不安でござるが……リル殿がそういうなら任せるでござる」
リルの戦力強化のためにムラマサは彼女に託され、その刀身が壊れるまでの間は彼女の武器として扱う事が決まる。その後、身体を十分に休めたレナ達は巨塔の大迷宮へと戻り、第四階層へむかうじゅんびを進める――
――翌日、転移台のフラガラッハにアスカロンを腰に差した完全装備のレイナ、団長であるリル、副団長のチイ、回復役のネコミン、そして急遽連れてきたシロとクロが乗り込んでいた。見送りのためにハンゾウとリリス、サンとクロミンも訪れていた。
「よし、皆準備はいいな?」
「大丈夫、ちゃんと弁当も持ってきた」
「おやつも鉄貨3枚分です!!」
「トイレも済ませてきました」
「「ウォンッ!!」」
リルは全員の準備を尋ねるとそれぞれが返事を行い、その様子を見ていたリリスは呆れた表情を浮かべる。
「いや、遠足じゃないんですから真面目にやってくださいよ……緊張感がありませんね」
「ご武運を……」
「レイナ、皆!!気を付けて!!」
「ぷるぷるっ(ぐっどらっく)」
「あれ、今クロミンが英語を喋ったような気がしたけど……気のせいかな?」
「何を言ってるんだお前は……さあ、行くぞ」
転移台に設置されている台座にチイが掌を伸ばすと、リルに振り返る。その彼女の反応を見てリルは頷くと、最後にリリス達に伝えた。
「3日後の夕方までに私達が戻れなかった場合、救助隊を派遣する必要はない。私達は死んだと考えてくれ、その場合は部隊を引き返して王都まで引き返すようにしてくれ……後は頼んだぞ」
「縁起でもないことをいわないでくださいよ。いいからさっさと行って、さっさと戻ってきてください」
「レイナ殿、リル団長の事を頼むでござる」
「大丈夫、何があっても俺の力で何とかしてみるよ」
「いってらっしゃい!!お土産、楽しみにして待ってる!!」
「ぷるんっ(頑張れっ)」
「よし、出発だ!!」
「はいっ!!では……密林!!」
リルはチイに振り返ると、チイは緊張した面持ちで第四階層に繋がる合言葉を告げた。その結果、転移台が光り輝き、光の柱と化してレイナ達の身体を飲み込んだ――
※レイナ「俺達の冒険はこれからだ!!」
カタナヅキ「いや、終わらねえよ!!」
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